📌 本記事の結論(先に要点)

・原価率が月末まで分からない原因は、在庫を月に1回しか数えていないことにあります。棚卸の回数が、原価率の細かさをそのまま決めます。
・主要な食材だけを週に1回数える。それだけで原価率は週単位で出ます。全品目を数えようとすると、二週目で止まります。
・人件費率は勤怠を日次で確定すれば週で出ます。労働時間の記録は労働基準法で必要なものなので、新しく増える手間ではありません。
・週に見る数字は、売上・原価率・人件費率・人時売上高の4つで足ります。項目を増やすほど、誰も見なくなります。
・手計算の限界は、仕入単価が動いたときにメニュー別の原価を引き直せなくなる場面で来ます。そこが仕組みにする入口です。

1. 月初の試算表で、先月の悪さを知る

月が明けて10日ほど経ち、試算表が出てきます。原価率が前の月より上がっている。見た瞬間に思い出すのは、たしかにあの食材が値上がりしていたこと。けれど値上がりが起きたのは先月の仕入のときで、気づいたのは1か月以上あとです。この時点で打てる手は「今月から気をつける」しかありません。先月の分は、もう取り返せません。

人件費率も同じ構図です。シフトは組んだときの人数でしか見ていません。実際に何時間働いたかと、その週にいくら売れたかが並ぶのは、給与計算を終えたあと。忙しかった週に人が足りず、暇だった週に人が余っていたとしても、その差は数字として残りません。翌月のシフトを組むときに参照できるのは、やはり店長の記憶だけになります。同じことが、翌月も繰り返されます。

よく言われる一般的な目安として、原価率は3割前後、人件費率も3割前後、合わせて6割以内に収めたいという話があります。ただ、目安を知っていること自体はあまり効きません。月に1回しか測れないなら、手を打てるのは年に12回だけです。週に1回測れるなら、年に52回打てます。目安との差を埋める作業が何回できるか。差が出るのはここです。

2. なぜ月末までしか分からないのか

原価率の計算式を分解すると、理由がはっきりします。原価率は、売上原価を売上で割ったものです。そして売上原価は「期首の在庫+その期間の仕入-期末の在庫」で出します。つまり原価率を出すには、期間の始めと終わりの在庫を数えなければなりません。在庫を月に1回しか数えていないなら、原価率も月に1回しか出ません。システムがあるかないかではなく、数える回数の問題です。

仕入の入力タイミングも効いています。月締めの請求書が届いてから入力しているなら、数字が揃うのはどうしても翌月です。けれど納品書は食材と一緒に、その日すでに店へ届いています。必要な情報は手元にあるのに、入れる場所と入れる人が決まっていないだけ、という店が少なくありません。請求書を待つ理由は、金額が確定していないことだけです。

人件費率は、人件費を売上で割ったものです。こちらは給与計算のサイクルに引っぱられます。勤怠の集計を月1回しかしていないなら、人件費も月1回です。あわせて見たいのが人時売上高で、売上を総労働時間で割った数字です。1人が1時間働いていくら売ったかを示します。業態によって水準が大きく違うので、他店の目安と比べるより、自店の先週・先々週と並べるほうが実務では役に立ちます。

もうひとつ、見落とされがちな穴があります。廃棄とまかないです。仕入れたのに売上につながらなかった食材は、そのまま原価率を押し上げます。期限切れの廃棄、仕込み過多で余った分、提供ミスによる作り直し、まかないへの流用。これらを数えていないと、原価率が上がった理由が「仕入値の上昇」なのか「捨てた量の増加」なのかを切り分けられません。切り分けられなければ、打つ手も決まりません。

3. 今のやり方のままで、今週からできること

システムを入れる前に効く手があります。ひとつ目は、棚卸の対象を絞って回数を増やすことです。全品目を月1回数えるのをやめ、金額の大きい主要食材だけを週1回数えます。多くの店では、仕入金額の上位2〜3割の品目で全体の7〜8割を占めます。肉、魚、主要な野菜、酒類。この20〜30品目だけなら、閉店後15分ほどで終わります。残りの品目は従来どおり月末にまとめて数えれば足ります。

ふたつ目は、仕入を納品書の日付で入れることです。請求書を待たず、納品書が届いた日にその場で入力します。金額が未確定なら前回の単価で仮に置き、請求書が来たら差額だけ直します。これで仕入の数字が週の途中で揃うようになります。入力は誰がやってもいいので、納品を受け取った人がその場で入れる形にするのが一番続きます。事務所に持ち帰ると、たまります。

みっつ目は、勤怠を日次で確定することです。労働基準法では労働日数や労働時間数の記録を残す必要があり、どの店でもやらなければならない作業です。すでにやっていることを、月末にまとめるのではなく毎日締めるだけ。新しい仕事が増えるわけではありません。これで週単位の総労働時間が出て、人件費率と人時売上高が計算できるようになります。

最後に、週に1枚の紙にまとめることです。見る数字は4つだけにします。売上、原価率、人件費率、人時売上高。先週と先々週を横に並べます。項目を10個に増やすと誰も見なくなるので、増やさないほうがいいです。月曜の朝に店長が5分で埋めて、同じ日のうちに仕込み量と翌週のシフトに反映させる。この往復ができれば、それだけで週単位の運営に切り替わります。

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4. それでも限界が来る場面

紙とExcelの運用でも、週次までは十分に届きます。限界が来るのは、数字の種類が増えたときではなく、掛け直しの量が増えたときです。わかりやすいのは仕入単価が動いた場面です。1品目の単価が変わると、その食材を使っているメニュー全部の原価が変わります。メニューが100品あり、1品に5〜10種類の食材が入っているなら、手計算で引き直すのは現実的ではありません。結果として値付けの見直しが後回しになり、利益の薄いメニューがそのまま売れ続けます。

店舗が増えたときも同じです。1店なら店長の頭の中で足りていたものが、3店になると本部での打ち直しが発生します。各店がそれぞれのExcelで、それぞれの数え方をしていると、合算した数字が信用できません。歩留まりの見方、まかないの扱い、仕入単価の採り方は店ごとに違うので、集計を揃える前に、数え方を揃える作業が必要になります。この作業は、店舗が増えるほど重くなります。

記録の種類が重なってくる場面もあります。食品衛生法では、原則すべての食品等事業者に、危害要因を踏まえた衛生管理計画の作成と、実施した記録の作成・保存が求められます。食品表示法では、容器包装された加工食品に特定原材料のアレルゲン表示が義務づけられており、弁当やテイクアウト商品を扱うなら関わります。消費税については、適格請求書発行事業者は登録番号と税率ごとに区分した消費税額などを記した書類を交付します。飲食店等は適格簡易請求書でも足ります。

これらは原価管理とは別の話に見えますが、扱う元データは重なっています。食材マスタ、レシピ、仕入、販売。同じ食材の情報を、衛生記録用の紙、アレルゲン一覧用のExcel、原価計算用のExcelに3回書いているなら、どれかが必ず古くなります。そして食い違いが見つかるのは、たいていお客様から問い合わせを受けたときです。原価の精度と記録の正しさは、同じ台帳の問題として現れます。

5. 仕組みにするなら、どこから手をつけるか

全部を一度に作ろうとすると、たいてい途中で止まります。順番があります。最初に作るのは食材マスタと単価の履歴です。食材ごとに、いつ・いくらで仕入れたかが並ぶだけの台帳。派手さはありませんが、これがないとあとのすべての計算ができません。逆にこれだけあれば、値上がりした食材の一覧はすぐ出せますし、仕入先ごとの単価の違いも見えるようになります。

次がレシピです。メニューごとに、どの食材を何グラム使うかを登録します。ここで歩留まりをどう見るかを決めておきます。仕入れた1キロのうち実際に皿に乗るのが何割かは店ごとに違い、ここを決めないと原価が合いません。既存の数え方を聞き取って、それに合わせるのが先です。計算式を先に決めてしまうと、現場の実感と数字がずれて、結局誰も見なくなります。

三番目が週次棚卸の入力画面です。主要食材だけが並んでいて、数を入れるだけで終わる形。冷蔵庫の前でスマホから入れられることが条件です。事務所に戻って打ち直す形にすると続きません。四番目が勤怠の日次確定、五番目がそれらを1画面に並べた週次の集計です。この5つが揃うと、月曜の朝に先週の原価率と人件費率が見えている状態になります。

既存のPOSや予約サイトから何がCSVやAPIで取り出せるかも、先に確かめる価値があります。売上と客数が自動で入ってくるなら、手入力は仕入と棚卸だけになります。取り出せない項目だけ手入力の画面を用意すれば、二重入力は増えません。TRUSTEP JAPANでは、この順番で範囲を区切った第一弾から作る進め方をとっています。原価管理だけ、廃棄記録だけと絞れば短期間で動くものが出て、使いながら範囲を広げられます。

6. まとめ:測る回数が、打てる手の回数

原価率と人件費率が月末までわからないのは、店の能力の問題ではありません。在庫を月1回、勤怠を月1回しか数えていないという、サイクルの設計の問題です。数える回数を増やせば、出てくる回数も増えます。そして全品目を週1回数える必要はなく、金額の大きい20〜30品目だけで、傾向をつかむには十分です。まず対象を絞ることが、回数を増やす前提になります。

週単位に切り替えると、できることが変わります。値上がりした食材をその週に見つけて、仕込み量か売価を調整できる。人が余った週と足りなかった週を数字で見て、翌週のシフトに反映できる。捨てた量が多かったメニューを特定して、仕込みの基準を直せる。どれも月1回の締めでは間に合わない判断です。間に合わないから、毎月同じ反省を繰り返すことになります。

紙とExcelのままでも、週次までは届きます。仕組みが必要になるのは、仕入単価が動くたびに全メニューの原価を引き直す段階、店舗が増えて数え方を揃える段階、そして衛生記録やアレルゲン表示と同じデータを使い回したい段階です。今週の棚卸を主要食材だけに絞ってみて、週次の4項目が埋まるかを試すところから始めれば足ります。

よくある質問

週次で棚卸をすると、現場の負担が増えませんか。

対象を絞れば増えません。全品目を月1回数えるのをやめ、金額の大きい20〜30品目だけを週1回数える形にします。閉店後15分ほどで終わる量です。残りの品目は従来どおり月末にまとめて数えれば足ります。全部を週次にしようとした店が続かないのは、たいてい品目を絞らなかったためです。

原価率の目安はどれくらいで見ればよいですか。

一般的な目安として、原価率3割前後、人件費率3割前後、合わせて6割以内という話がよく語られます。ただ業態による差が大きいので、他店の目安と比べるより、自店の先週・先々週と並べて動きを見るほうが実務では役に立ちます。目安は入口の確認に使い、判断は自店の推移で行うのが現実的です。

人時売上高はどう計算して、何に使うのですか。

売上を総労働時間で割った数字です。1人が1時間働いていくら売ったかを示します。曜日や時間帯ごとに出すと、人が余っていた時間と足りなかった時間が見えるので、翌週のシフトを組む材料になります。勤怠を日次で締めていれば、週単位で出すことは十分に可能です。

衛生管理の記録は、原価管理と一緒にできますか。

食品衛生法では、原則すべての食品等事業者に、危害要因を踏まえた衛生管理計画の作成と、実施した記録の作成・保存が求められます。扱う食材マスタは原価管理と重なるため、同じ台帳を元にすれば同じ情報を二度書く必要がなくなります。アレルゲンの情報も、同じ食材マスタに持たせられます。

POSを変えずに原価管理だけ始められますか。

できます。まず既存のPOSからCSVやAPIで売上と客数が取り出せるかを確認します。取り出せれば自動で取り込み、取り出せない項目だけ手入力の画面を用意します。POSの入れ替えを前提にする必要はありません。入れ替えを先に決めると、費用も停止期間も大きくなってしまいます。

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飛
飛田 昌邦(TRUSTEP JAPAN株式会社 代表取締役)
大手総合商社で12年間営業に従事し、年間優秀社員賞を7回受賞。2020年に創業し、経営・営業・人材育成の支援実績は400社以上。現在は経営・営業・人材育成のプロと社内のエンジニアによるチームで、中小企業の業務システムを一緒につくり、使いこなせるまで伴走している。認定経営革新等支援機関。