・配車が属人化する原因は担当者の能力ではない。配車の判断に必要な数字が、判断する場所に置かれていないことにある。
・拘束時間が月末までわからないのは、出庫と帰庫の時刻が集計されるまで数字にならないから。日報を出す順番を変えれば当日に動かせる。
・改善基準告示は1日の拘束時間を原則13時間以内・最大15時間、休息期間は継続11時間以上を基本とし9時間を下回らないと定めている。
・紙とエクセルのままでも、配車判断に使う項目を4つに絞って1か所に並べれば、別の人が同じ配車を組めるようになる。
・システム化は配車表の電子化より、点呼と日報の入口を一本化して拘束時間を自動計算させるほうが先に効く。
1. 配車がホワイトボードで回る会社の朝
朝の事務所に入ると、壁のホワイトボードにマグネットが並んでいる。左が車番、右がドライバー名。荷主から電話が入るたびに、配車担当がマグネットを動かす。誰がどこへ行くかは、そのボードにしか書かれていない。そして、そのボードを正しく読めるのは配車担当ひとりだけ、という会社は珍しくない。これは悪いやり方ではない。電話一本で行き先が変わる仕事に、ボードは速くてよく合っている。問題はやり方ではなく、その情報がボードの外に出ていかないことにある。
困るのは配車担当が休んだ日だ。社長や別の社員が代わりに入ると、まず「この車は何時に戻るのか」が分からない。次に「この人は今月あと何時間走らせていいのか」が分からない。ボードには行き先しか書いていないからだ。結局、休んでいる配車担当に電話して聞くことになる。休みの日に電話が鳴る。これが続けば配車担当は休めなくなり、いざ辞めるときには引き継ぎが成立しない。属人化の代償は、辞める日にまとめて請求される。
もうひとつの困りごとが拘束時間だ。日報は紙で提出され、月末にまとめて事務が集計する。だから超えているかどうかが分かるのは、超えた後になる。注意しようにも運行はすでに終わっている。改善基準告示に沿っているかを確かめる作業が、事後の答え合わせになってしまっている。そして答え合わせで赤が出ても、過去の運行は取り消せない。管理しているつもりで、実際には記録しているだけという状態になりやすい。
- 配車の根拠が本人の記憶にあり、紙にもデータにも残っていない
- ドライバーの残り拘束時間を、配車を決める時点で誰も見ていない
- 日報は紙で提出され、数字になるのは月末の集計が終わってから
- 点呼記録とアルコールチェックの記録が、日報とは別の台帳にある
- 配車担当が休むと、代わりに入った人が前日の運行を再現できない
2. 属人化は人の問題ではなく置き場の問題
属人化の原因を「担当者が情報を抱えている」と見ると、対策を間違える。実際に起きているのは、配車の判断に必要な数字が、判断する場所に無いという状態だ。配車を決めるには、行き先と車両だけでは足りない。そのドライバーが前の運行で何時に帰庫したか、今日の拘束時間はどこまで伸ばせるか、今月の累計がどこまで来ているか。この三つが要る。ところがこれらは紙の日報の束の中にあり、集計されるまで数字にならない。だから配車担当は、自分の記憶で埋めるしかない。
記憶で埋めた判断は、本人の中では筋が通っている。しかし外からは検証できない。これが引き継げない本当の理由だ。手順書を書こうとしても、書けるのは「荷主に確認する」「担当に聞く」といった動作だけで、判断の根拠にあたる数字が書けない。だから新しい人が入っても、同じ判断ができるようになるまでに何年もかかる。教え方が悪いのではなく、教える材料が形になっていない。
拘束時間が月末までわからない理由も、同じ構造から来ている。改善基準告示が求めているのは、1日の拘束時間、運行と運行の間の休息期間、連続運転時間といった時間の間隔の管理である。間隔は、出庫時刻と帰庫時刻、そして前の運行の帰庫時刻が揃った瞬間に計算できる。つまり必要なのは月末の集計ではなく、運行が終わったその日に時刻を数字として置くことだ。紙の日報を月末に集めるやり方は、計算できるようになる時点をわざわざ一か月遅らせている。
- 配車に必要な数字が紙の日報の束の中にあり、判断時に参照できない
- 行き先だけが記録され、時刻が残らないため時間の間隔が計算できない
- 記憶で補った判断は本人以外には検証できず、手順書にも書き残せない
- 点呼・日報・配車表が別々の台帳に分かれ、突き合わせに手間がかかる
- 集計が月に1回なので、是正できるのは運行がすべて終わった後になる
3. やり方を変えずに今日からできる整理
システムを入れる前に、今のやり方のままで効く整理が三つある。一つ目は、配車の判断材料を4項目に絞って1か所に書くことだ。ドライバー名、前の運行の帰庫時刻、今日の予定出庫時刻、今月の拘束時間の累計。この4つだけを、ホワイトボードの横に貼った紙でもエクセルでもよいので、同じ場所に並べる。行き先の管理は今のボードのままで構わない。4項目が並ぶだけで、休息期間が足りているかを配車を決める前に目で確認できるようになる。
二つ目は、日報の提出を月末からその日に変えること。紙のままでも構わない。帰庫したドライバーに、出庫時刻・帰庫時刻・休憩の取り方をその場で書いてもらい、事務がその日のうちに拘束時間を1行だけ記録する。1人1日1行なら、1分もかからない。月末に一気にやるから大変なだけで、日々に割れば負担はほとんど増えない。そしてこの1行が積み上がれば、月の累計はいつ聞かれても答えられる状態になる。
三つ目は、危ないラインの手前に自分で線を引くこと。改善基準告示は1日の拘束時間を原則13時間以内、最大でも15時間までと定めている。そこで社内の目安を13時間に置き、13時間に近づいた運行を配車担当に知らせる取り決めにする。上限ぎりぎりで運用すると、渋滞や荷待ちで簡単に超える。手前に線を引いておけば、超える前に代替の手を打てる。線を引くのは制度ではなく自社の運用なので、明日からでも始められる。
- 配車判断に使う4項目を1か所にまとめ、行き先の管理とは分けて並べる
- 日報は帰庫したその日に提出し、事務がその日のうちに1行だけ記録する
- 前の運行の帰庫時刻を必ず残し、次の出庫までの間隔をその場で確認する
- 社内の目安を法令の上限より手前に置き、近づいた時点で配車担当に知らせる
- 点呼記録とアルコールチェックの記録は、日報と同じ日付で並べて保管する
- 配車担当が休む日をあえて作り、別の人が同じ材料で配車を組んでみる
どんなものを作っているかをまとめました。
4. 紙とエクセルで限界が来る場面
手で整理したやり方は、台数とドライバーが増えると必ず止まる。止まるのは計算そのものではなく、条件が重なったときだ。改善基準告示が見る時間は一つではない。1日の拘束時間、運行と運行の間の休息期間、連続運転時間、1か月と1年の累計。これらは別々に効いてくる。1日の拘束時間に余裕があっても、前日の帰庫が遅ければ休息期間が足りない。休息期間が足りていても、月の累計が上限に近ければ走らせられない。手計算で全部を同時に見るのは、人数が増えるほど現実的でなくなる。
もう一つの限界は、記録の保存と取り出しだ。点呼の記録、アルコール検知器を用いた確認の記録、乗務等の記録は、作成したうえで定められた期間の保存が義務づけられている。紙のまま保管していても義務は果たせるが、監査や巡回指導で特定の日の記録を求められたときに、束をめくって探すことになる。日付とドライバー名で引ける形になっていないと、探す時間そのものが負担になり、日報や配車記録との突き合わせも進まない。
三つ目は、エクセルを作った人しか直せなくなる現象だ。関数と色分けで工夫を重ねたファイルは、よくできているほど他の人が触れない。壊すのが怖いので、計算が合わなくなっても作った人が戻るまで待つことになる。しかも日報の様式が変わったり、ドライバーが増えたりするたびに手直しが必要になる。これではホワイトボードの属人化を、エクセルの属人化に移しただけの状態だ。置き場を変えても、判断材料が共有されていなければ同じことが起きる。
- 1日・休息期間・連続運転・月・年の条件が重なり、手計算では追えない
- 点呼やアルコールチェックの記録を、日付とドライバー名で取り出せない
- 配車の変更が1日に何度も入り、紙の書き換えが運行に追いつかない
- エクセルが作った人以外に直せなくなり、属人化が形を変えて残る
- 庸車や帰り便の調整まで含めると、一人の記憶で扱える量を超える
5. システム化するなら何から手を付けるか
システム化の順番を間違えると、費用だけが出ていく。配車表の電子化から入りたくなるが、先に効くのは記録の入口を一本にすることだ。点呼のときに、アルコールチェックの結果、健康状態、出庫時刻を同じ画面で記録する。帰庫したら帰庫時刻を記録する。入口が一本になった時点で、1日の拘束時間、前の運行からの休息期間、月と年の累計は自動で計算できる。配車画面を作るのは、この数字が毎日出るようになった後でよい。
次に手を付ける価値があるのは、配車を決める画面に残り時間を表示することだ。ドライバーを選ぶ欄に「前の運行の帰庫から何時間」「今月の累計が何時間」が出ているだけで、配車担当の判断から記憶の出番が消える。判断の根拠が画面に出ているので、別の人が同じ配車を組めるようになる。属人化の解消は、人に覚えさせることではなく判断材料を画面に出すことで進む。アラートを出すのは、その次でよい。
当社は経営コンサルティングを本業としながら、社内にエンジニアが在籍している。運送・物流業の配車と拘束時間管理についても、今の運用を聞き取ってから作る範囲を決めている。いきなり全部を作り替えるのではなく、点呼と日報の入口から始めて配車画面を後から足す形が、現場に残りやすい。進め方の詳細は運送・物流業向けのページにまとめているので、順番の決め方で迷ったときに見てほしい。
- 点呼とアルコールチェック、出庫と帰庫の時刻を同じ画面で記録する
- 入力した時刻から拘束時間と休息期間を自動で計算し、当日のうちに表示する
- 法令の上限に近づいた時点で、配車担当に知らせる仕組みを先に作る
- 配車画面にドライバーごとの残り時間を表示し、記憶に頼らせない
- 記録は日付とドライバー名で検索でき、保存期間を満たす形にする
- 既存のデジタコやエクセルから取り込み、同じ数字を二度打たない
6. まとめ:見えない時間を見える数字に
配車がホワイトボードと記憶で回っているのは、現場が手を抜いているからではない。電話一本で変わる仕事に、ボードが速くてよく合っていたからだ。ただ、ボードは行き先を表せても、時間の間隔は表せない。だから拘束時間の管理だけは、別の置き場を用意する必要がある。直すべきは担当者の意識ではなく、判断材料の置き場だと考えると、打つ手がはっきりしてくる。
今日からできることは三つある。配車判断に使う4項目を1か所に並べる。日報をその日に出して1行だけ記録する。法令の上限より手前に社内の線を引く。この三つだけで、拘束時間が分かる時点が月末から当日に移る。超えた後に知る状態から、超える前に手を打てる状態へ変えることが、配車の効率化の出発点になる。順番を踏めば、費用をかけずに進む部分は意外に大きい。
それでも台数と人数が増えれば、手作業はいずれ限界を迎える。そのときも、配車表の電子化より先に、点呼と日報の入口を一本化して拘束時間を自動で計算させるほうが効く。入口が揃えば配車画面は後から足せるし、記録の保存と取り出しも同時に片づく。運送・物流業での具体的な進め方は専用のページで紹介しているので、自社の順番を決める材料として使ってほしい。
- 直すのは担当者の意識ではなく、判断材料をどこに置くかという設計
- 拘束時間が分かる時点を月末から当日へ移すことが最初の一歩になる
- システム化は配車表より、点呼と日報の入口の一本化から着手する
よくある質問
配車担当が休むと業務が止まります。何から直せばよいですか。
配車の判断材料を4項目に絞り、1か所に書き出すところから始めます。ドライバー名、前の運行の帰庫時刻、今日の予定出庫時刻、今月の拘束時間の累計です。行き先の管理は今のホワイトボードのままで構いません。この4項目が並んでいれば、別の人でも休息期間が足りているかを確認してから配車を組めます。
拘束時間が月末までわかりません。集計を早める方法はありますか。
日報の提出を月末からその日に変えるだけで変わります。帰庫したドライバーに出庫時刻と帰庫時刻を書いてもらい、事務がその日のうちに拘束時間を1行だけ記録します。1人1日1行なら負担はほとんど増えません。1行が積み上がれば、月の累計はいつ聞かれても答えられる状態になります。
改善基準告示では1日の拘束時間はどう定められていますか。
1日の拘束時間は原則13時間以内、最大でも15時間までと定められています。休息期間は継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、9時間を下回らないこととされています。連続運転は4時間以内で、運転の中断は1回おおむね連続10分以上、合計30分以上の確保が必要です。社内の目安は上限より手前に置くことをおすすめします。
点呼やアルコールチェックの記録は、紙のままでも問題ないですか。
記録を作成し、定められた期間を保存していれば、紙であること自体が問題になるわけではありません。実務で困るのは、監査や巡回指導で特定の日の記録を求められたときに束をめくって探すことです。日付とドライバー名で引ける形にしておくと、探す時間がなくなり、日報や配車記録との突き合わせも楽になります。
システム化はどこから始めると失敗しにくいですか。
配車表の電子化より先に、点呼と日報の入口を一本にすることをおすすめします。アルコールチェックの結果と出庫・帰庫の時刻を同じ画面で記録すれば、1日の拘束時間、休息期間、月の累計が自動で計算できます。配車画面に残り時間を表示するのはその後です。順番を守れば小さく始められます。
まずは30分お話を伺います。
