・受発注のミスは担当者の注意不足ではなく、注文の入口が分かれていることが原因である。入口を一本にするだけで減る。
・在庫のズレは、物が動いた事実と台帳の更新がずれた時間に生まれる。出荷したその日のうちに数を戻す形にする。
・紙とExcelのままでも、受注の受付台帳と在庫の引当のルールを決めれば今日から改善できる。
・得意先ごとの単価や掛率が人の記憶に残っていると、請求の訂正が増える。単価は人から台帳に移す。
・システム化は在庫の見える化から入るのが順序である。受注と在庫を別々に入れると二重入力が残る。
1. 受注の入口が5つに分かれている
卸売や商社の受注は、ひとつの窓口にまとまっていないことが多い。ある得意先は今もFAXで注文書を送ってくる。別の得意先は営業担当の携帯に電話をかける。さらに別の得意先はメールで「いつものを三箱」と書いてくる。大手の得意先だけはEDIで届く。そのうえ、展示会で受けた口頭の注文がメモ帳に残っている。入口が五つに分かれていると、注文を集める作業そのものが仕事になる。誰かが各入口を回って拾い、ひとつの表に書き写す。この書き写しの回数が、そのままミスの回数になる。
ズレが表に出るのは、たいてい出荷の直前である。在庫表には十箱あるはずなのに、棚には六箱しかない。慌てて他の倉庫に電話をかけ、見つからなければ得意先に謝りの連絡を入れる。あるいは逆に、在庫がないと思って断った商品が、翌日の棚卸で見つかる。どちらも「数が合っていない」というひとつの問題である。現場では欠品と過剰在庫は別の話として扱われがちだが、原因は同じところにある。
さらに厄介なのは、ミスが見つかる時期である。受注の数量違いや単価違いは、出荷の時点では気づかれない。月末の締めで請求書を作る段になって、得意先から「この単価は違う」と連絡が来て初めて分かる。そこから伝票を探し、FAXの原本を倉庫から出し、営業に確認を取る。一件の訂正に半日が消える。ミスの本当のコストは、訂正にかかる時間である。
- 同じ注文がFAXとメールで二重に届き、気づかず両方を出荷してしまう
- 電話で受けた注文が営業の手帳に残り、事務所の受注表に載らない
- 在庫表の数は合っているが、取り置き分が引かれず二重に売ってしまう
- FAXの手書き数量が読めず、前回と同じ数量だと決めつけて入力する
- 得意先ごとの掛率を担当者が覚えていて、交代した途端に単価が狂う
2. ミスは注意力ではなく形から出る
受発注のミスを減らそうとすると、まず「確認を徹底する」という話になる。ダブルチェックの欄を伝票に増やし、朝礼で注意を呼びかける。しばらくは減る。しかし三か月もすると元に戻る。注意力は使えば減る資源であり、繁忙期に最初に枯れる。減らすべきは注意ではなく、注意を必要とする場所の数である。注文が五つの入口から入るなら、注意を向けるべき場所は五つある。入口を二つにすれば、注意を向ける場所も二つになる。
在庫のズレも同じ構造である。ズレは、物が動いた時刻と台帳が更新された時刻の差のあいだに生まれる。朝に出荷した三箱を、夕方にまとめて入力する。その日のうちに入力すれば、ズレは一日で消える。入力を翌日に回せば、ズレは二日ぶん積み上がる。棚卸までためれば、ズレは半年ぶんになり、どの出荷が原因だったのか追えなくなる。在庫のズレの大きさは、記録の遅れの長さに比例する。
もうひとつの原因は、在庫の数を一種類しか持っていないことである。棚にある数と、売れる数は別物である。すでに受注が入って取り置きになっている分、返品で戻ってきたが検品が済んでいない分、品質の確認待ちで止めている分。これらを引いた残りが、本当に約束できる数である。棚の数だけを見て受注を受けると、同じ商品を二重に売ることになる。ここを分けて持っていない在庫表は、必ずどこかで破綻する。
- 確認の回数を増やす対策は、人が足りない繁忙期に最初に守られなくなる
- 入力をまとめて後回しにすると、どの出荷が原因かを追えなくなる
- 棚にある数と売れる数を分けていないと、同じ商品を二重に売ることになる
- 注文書の様式が得意先ごとに違うため、読み替えの手間がミスを呼ぶ
- 単価や掛率が担当者の記憶の中にあると、引継ぎのたびに条件が狂う
3. 紙とExcelのままできる五つの手当て
システムを入れる前に、形を整えるだけで減るミスがある。最初にやるのは、注文の入口を減らすことである。全部をなくす必要はない。得意先の都合でFAXが必要なら残してよい。大事なのは、どの入口から入っても最後は一枚の受注台帳に集まる、という道をつくることである。FAXは届いた順に受付番号を振り、受注台帳に番号ごと書き写す。電話は必ず折り返しのメールか注文確認書を出し、口頭だけで終わらせない。
次に、在庫の数を「棚にある数」と「約束できる数」の二列に分ける。Excelでもできる。棚の数から、受注済みで出荷前の数と、検品待ちの数を引いた列をつくる。受注を受けるときに見るのは、必ず右側の列である。この一列を足すだけで、二重に売る事故は目に見えて減る。あわせて、出荷したらその日のうちに数を落とすという一点だけを守る。まとめ入力をやめるだけで、ズレの追跡ができるようになる。
三つめは、単価と掛率を人から台帳に移すことである。得意先ごとの掛率、商品別に取り決めた単価、数量による条件。これらを一枚の表にして、受注のときにその表だけを見る。四つめは、賞味期限やロットのある商品で、期限が近いものから先に出す順番を決めること。五つめは、返品と値引きの処理の形を決めておくことである。返品を受けたら、在庫を戻すのと、売上を取り消す赤伝を起こすのを、必ず同じ日に行う。片方だけが先に進むと、在庫と売上の両方が合わなくなる。
請求と帳簿の保存には制度上の決まりもある。インボイス制度(適格請求書等保存方式)では、適格請求書発行事業者として登録した事業者が、取引の相手方の求めに応じて適格請求書を交付する義務があり、登録番号、適用税率、税率ごとに区分した消費税額などの記載が必要である。また、注文書や請求書を電子データで受け取った場合は、電子帳簿保存法の電子取引の保存要件に沿って、そのデータのまま保存する必要がある。紙に印刷して元データを捨てる運用は、この点で見直しが要る。
- FAXは到着順に受付番号を振り、受注台帳に番号ごとそのまま転記する
- 電話注文は必ず注文確認書かメールを返し、口頭だけで終わらせない
- 在庫表に「約束できる数」の列を足し、受注時はその列だけを見る
- 出荷したその日のうちに在庫を落とし、まとめ入力の習慣をやめる
- 得意先別の掛率と商品別の単価を一枚の表にまとめ、人の記憶から外す
- 返品は在庫の戻しと赤伝の発行を同じ日に行い、片方だけ進めない
どんなものを作っているかをまとめました。
4. 手作業で追いつかなくなる境目
台帳と決め事を整えても、ある規模を越えると手では追えなくなる。境目は売上の額ではなく、同時に動いている数の多さである。扱う品番が増え、倉庫が二か所以上になり、得意先ごとの単価の取り決めが何十通りにもなると、人の確認では網羅できない。とくに苦しくなるのは、受注と出荷の時間差が長い商材である。今日受けた注文が来週出るなら、その一週間ぶんの取り置きを頭の中で管理することになる。
もうひとつの境目は、締めと請求である。得意先ごとに締め日が違い、月末締めのところと二十日締めのところが混在し、期間中の売上と返品の赤伝を集めて合計請求書を作る。これを手作業でやると、締めの数日間は他の仕事が止まる。しかも、この作業は月に一度しかないため、担当者がひとりに固定されやすい。その人が休むと会社が止まる、という状態になっていれば、それは仕組みの限界が来ている合図である。
仕入や外注の側にも境目がある。自社が製造や加工などを他の事業者に委託している場合、中小受託取引適正化法(旧 下請代金支払遅延等防止法)により、委託の内容や代金、支払期日などを書面などで示す義務と、定めた支払期日までに代金を支払う義務がある。支払期日には法令上の上限があるため、物や成果物を受領した日を起点に管理しなければならない。取引の件数が増えるほど、どの受領がいつの支払いに乗るのかを手で追うのは難しくなる。
- 品番が増え、倉庫が二か所以上になると人の確認では網羅できない
- 受注から出荷までの日数が長い商材は、取り置きが頭で管理できない
- 得意先ごとに締め日が違い、締めの数日間は他の仕事が止まってしまう
- 月次の請求作業が特定の一人に固定され、その人が休むと業務が止まる
- 外注先への支払期日を人の記憶で管理しており、抜けの不安が残る
5. 入れる順番を間違えないこと
在庫管理システムや販売管理システムを検討するとき、最初に決めるべきは機能の多さではなく順番である。いちばん先に手当てすべきなのは、在庫の数が一か所に集まる状態をつくることである。入出庫の記録が通る道を一本にし、そこを通った記録だけが在庫の数を動かす。受注の入力も、出荷の確定も、返品の戻しも、全部その一本を通る。この形にすると、数が合わない原因は必ずその道の上にあることになり、調べる範囲が限られる。
次が受注の受付である。FAXやメールを完全になくすのは難しい。それでも、受け取った注文を一か所に登録し、受付番号で追える状態にはできる。登録の時点で、得意先ごとの単価や掛率を自動で当て、約束できる在庫の数を照らして、出せるか出せないかをその場で返す。ここまで来ると、営業が得意先に「いまの在庫で出せます」と即答できるようになる。問い合わせの電話が減るのは、この段階の副産物である。
三番目に締めと請求、四番目に入金の照合、五番目に発注点による仕入の提案、という順で広げていく。この順番には理由がある。在庫が合っていなければ受注は返事ができず、受注が揃っていなければ請求は作れず、請求が正しくなければ入金の照合はできない。前の段が崩れていると、後ろの段をいくら作っても使えない。導入を一度に全部やろうとして失敗する例は、だいたいこの順番を飛ばしている。
当社は経営コンサルティングを本業としながら、社内にエンジニアが在籍し、こうした業務システムの設計と開発も行っている。業種を問わず共通して言えるのは、最初に決めるべきなのは製品の選定ではなく、自社のどの段が崩れているかの見極めだということである。どこから手を付けるかという順番の整理だけでも相談に乗れる。
- 第一段階は在庫である。入出庫の記録が通る道を一本に絞ってまとめる
- 第二段階は受注の受付である。受付番号と単価の自動当てはめを入れる
- 第三段階は締めと請求である。得意先別の締め日と赤伝の反映を入れる
- 第四段階は入金の照合である。手数料差額や一部入金の処理を入れる
- 第五段階は仕入である。発注点を割った商品の発注案を自動で出す
6. 明日の朝、最初にやること
ここまでを一文にすると、受発注のミスと在庫のズレは、注意力の問題ではなく業務の形の問題である、ということになる。入口が分かれていればミスは出るし、記録が遅れればズレは育つ。逆に言えば、形を変えれば減る。人を替えなくても減る。ここが大事なところで、ミスを出した担当者を責める会議を開いても、翌月また同じことが起きる。責める相手は人ではなく、入口の数と記録の遅れである。
明日の朝にできることを一つだけ挙げるなら、直近一か月で起きた受発注のミスと在庫のズレを、紙に書き出すことである。何件あったか、どの入口から入った注文だったか、気づいたのは出荷前か請求のときか。十件ほど並べると、偏りが見える。だいたい特定の入口と、特定の商品群に集まっている。全部を直す必要はない。その偏りのあるところから手を付ければ、投じた手間に対して戻りが大きい。
自社の状況をもう少し具体的に見たい場合は、卸売・商社向けに業務の論点を整理したページも用意している。受注の入口、在庫の引当、得意先ごとの単価と掛率、締めと請求、入金の照合という順に並べてあるので、自社がどこまで手当てできていて、どこから先が手作業に頼っているのかを照らしやすい。受注から在庫、締め請求までを一続きで見直すときの下敷きとして使ってほしい。
- 直近一か月のミスとズレを紙に書き出し、入口ごとに件数を数える
- 気づいた時点も記録する。出荷前だったのか、締めのときだったのか
- 偏りが大きい入口と商品群から手を付ける。全部を一度に直さない
よくある質問
FAXの注文をなくしたいが、得意先が応じてくれない。
無理になくさなくてよい。FAXを入口として残したまま、届いた注文に受付番号を振り、受注台帳に一度だけ転記する形にすれば、ミスの原因である二度手間は消える。得意先に変更を求めるより、自社の側で受付の道を一本にするほうが早く効く。応じてくれる得意先から順に、メールや専用の注文画面へ移していけばよい。
在庫が合わない原因は、どう調べればよいか。
まず期間を区切る。前回の棚卸から今日までのあいだで、物が動いたのに記録が残っていない場面を探す。多いのは、サンプル出荷、社内使用、返品の戻し、倉庫間の移動である。この四つは伝票が起きないまま物が動きやすい。ここに記録の欄をつくるだけで、ズレの大半は説明がつくようになる。
在庫管理システムは、どこから始めればよいのか。
金額より先に、どこまでを対象にするかを決めたほうがよい。在庫の記録だけを一本化する範囲なら小さく始められるが、受注、締め請求、入金の照合まで含めると規模が変わる。複数の提案を比べるときは、機能の数ではなく、自社の受注の入口がいくつ扱えるか、得意先ごとの締め日の違いを扱えるかで比べると差が分かる。
インボイス制度や電子帳簿保存法への対応は、システムなしでも可能か。
可能である。ただし適格請求書には登録番号や税率ごとに区分した消費税額などの記載が必要で、得意先ごとに締めて合計請求書を出す卸売では手作業の負担が大きい。また、注文書や請求書を電子データで受け取った場合は、電子帳簿保存法の電子取引の保存要件に沿った保存が求められる。件数が多いほど仕組み側で担保したほうが安全である。
現場が新しい仕組みを嫌がる。どう進めるか。
入力を増やす提案は必ず嫌がられる。順番を逆にして、現場が今いちばん困っていることから始める。多くの場合それは「在庫を聞かれてすぐ答えられない」ことである。在庫の数が即座に見える状態を先に渡すと、そのために入力が必要だという話は通りやすくなる。管理のための入力から始めると、まず続かない。
まずは30分お話を伺います。
