・二重入力は職員の手際の問題ではない。紙の様式とパソコンの入力欄がそろっていないから、書き写す作業が必要になる。
・まず手書き様式とパソコンの入力項目を一つずつ並べて突き合わせる。これだけで、どこで情報が落ちているかが見える。
・加算の記録は月末に集めるのではなく、日々の記録の中に項目として埋め込む。後から思い出して書く作業がなくなる。
・運営基準で求められる記録の整備と保存、身体的拘束等の適正化のための記録は、入り口を分けない形で管理する。
・システム化は記録の入口から始める。国保連への請求の算定は既存の請求ソフトに任せ、記録側はCSVを渡すまでに留める。
1. よくある状態:同じことを二度書く
訪問先の玄関先で記録用紙に書く。居室でケア記録のノートに書く。事務所に戻り、その紙を見ながらパソコンの記録ソフトやExcelに同じ内容を打ち込む。多くの事業所でこの流れが当たり前になっています。紙は現場で手が離せないときに強く、パソコンは集計と提出に強い。どちらも必要だと考えると、両方に書くしかないという結論になります。結果として、一日のケアが終わった後に、記録の書き写しだけで机に向かう時間が生まれます。
書き写しの負担は時間だけではありません。紙に書いた略語や走り書きを、別の人が読んで打ち込むと、意味が少しずつ変わります。「ご本人が強く拒否」と書かれた一行が、入力のときに「入浴を見送り」とだけ残ることがあります。後から記録を見返したとき、何があったのかが分からなくなります。実地指導やご家族からの問い合わせで記録を出す場面になって、はじめてこの欠けに気づくことになります。
もう一つの困りごとが、加算の記録です。日々の記録とは別に、加算用の様式を用意している事業所が多くあります。月末に職員へ「この日の対応を書いて」と頼み、思い出しながら埋めてもらう。書けないものは加算を取り下げる。こうして、実際にやったケアが記録に残らないまま終わります。現場は手を抜いていないのに、記録の形が整っていないだけで評価されないという状態です。
- 現場では記録用紙に書き、事務所に戻ってパソコンに打ち直している
- 紙の走り書きを別の職員が入力するので、記録の中身が少しずつ変わる
- 日々の記録とは別に、加算用の様式を月末にまとめて埋めている状態
- 実際にやったケアでも、記録が残っていないと加算を取り下げている
- 記録の置き場所が紙・Excel・記録ソフトに分かれ、探すのに時間がかかる
2. なぜ二重入力が生まれるのか
原因は職員の手際ではありません。紙の様式とパソコンの入力欄が、別々に作られていることが原因です。紙の様式は現場で書きやすい順に並んでいます。パソコンの入力欄は集計しやすい順、あるいは請求ソフトに合わせた順に並んでいます。並び順も使う言葉も違うので、転記するときに頭の中で組み替える作業が必要になります。この組み替えが、書き写しを単純作業ではなく判断作業にしてしまいます。
もう一つは、記録の目的が一枚の紙に混ざっていることです。介護記録には、次の勤務者への申し送り、サービス提供の実績、加算の要件を示す根拠、事故やヒヤリハットの経過という、性質の違う情報が同居しています。目的ごとに必要な項目は違うのに、同じ自由記述欄に書いてしまう。だから後から特定の情報だけを取り出せず、月末に人の記憶に頼って集め直すことになります。
さらに、紙の様式が増え続ける構造があります。新しい加算を取るとき、新しい様式を一枚足す。事故が起きたら、確認欄を一つ足す。足すのは簡単ですが、やめる判断をする人がいません。様式が増えるほど、同じ利用者について書く回数が増えます。二重入力は三重入力、四重入力になっていきます。気づいたときには、一人の利用者について一日で何枚もの紙が発生しています。
- 紙の様式とパソコンの入力欄で、項目の並び順と言葉が違っている
- 申し送り・実績・加算の根拠・事故の経過が同じ欄に混ざっている
- 新しい加算や事故のたびに様式が増え、やめる判断をする人がいない
- 入力した結果が現場に返らないので、入力が報われない作業になる
- 記録ソフトが請求に合わせて作られ、現場の書く順になっていない
3. 紙のままでも今日からできる三つの手当て
システムを入れる前にやるべきことがあります。手書き様式とパソコンの入力項目を、紙に並べて突き合わせることです。左に紙の欄、右にパソコンの欄を書き出し、線で結びます。すると結べない欄が必ず見つかります。紙にしかない欄は、入力のときに捨てられている情報です。パソコンにしかない欄は、現場が思い出しながら埋めている情報です。この二種類を洗い出すだけで、どこで情報が落ちているかが見えます。
次に、手書き様式の並び順をパソコンの入力順に合わせます。項目を増やすのではなく、並べ替えるだけです。上から順に読んで上から順に打てる状態にすると、転記は目を往復させる作業から一本道の作業に変わります。合わせて、よく使う言葉を選択肢にしておきます。「拒否」「見送り」「一部介助」など普段使う表現を様式の横に印刷し、丸をつける形にします。走り書きが減り、読み手が迷わなくなります。
三つ目は、加算の要件に対応した記録項目を、日々の記録の中に移すことです。加算ごとに別の様式を作らず、普段の記録に「誰が」「何を」「どのくらいの時間」「どんな様子だったか」を書く欄を設けます。算定している加算の一覧を作り、それぞれで残すべき情報が日々の記録のどの欄で満たせるかを対応づけておきます。月末に集める作業が、日々の記録を数える作業に変わります。
この三つは紙とExcelのままでもできます。費用はかかりません。やってみてはじめて、どこが本当に自動化すべき場所なのかが分かります。順番を逆にして先にシステムを入れると、整っていない様式をそのまま画面に写すことになり、入力する場所が紙と同じだけ増えます。システムは、整った手順を速くする道具です。整っていない手順を整えてはくれません。
- 紙の欄とパソコンの欄を書き出し、線で結んで対応関係を確かめる
- 手書き様式の並び順を、パソコンの入力順にそろえて刷り直しておく
- よく使う言葉を選択肢として様式に印刷し、丸をつけて記録する形にする
- 加算ごとの様式をやめ、日々の記録の欄で要件を満たす形に寄せる
- 増えた様式を一度全部並べ、使われていないものをやめる判断をする
- 記録の置き場所を一か所に決め、誰でも同じ場所を見られるようにする
どんなものを作っているかをまとめました。
4. 紙の工夫では限界が来る場面
様式を整えても、紙では越えられない壁があります。一つは、同じ記録を複数の人が同時に見たい場面です。訪問先の職員、事務所の管理者、相談に答える担当者が、同じ日の記録を同時に必要とします。紙は一枚しかないので、順番待ちになります。もう一つは期限の管理です。モニタリングの時期、計画の見直し、職員の資格の更新。紙の一覧表では、近づいた期限が自分から知らせてくれません。
集計も限界が来ます。加算の要件を満たした回数を数える、職員ごとの記入漏れを探す、利用者ごとの状態の変化を並べる。どれも紙では一枚ずつめくる作業になります。人数が増えるほど、月末の作業時間が利用者の人数に比例して伸びていきます。Excelに打ち直して集計する形にしても、その打ち直しがもう一度の二重入力になります。
制度の側からの要請もあります。運営基準では記録の整備と保存が求められ、身体的拘束等の適正化のための記録も残す必要があります。業務継続計画(BCP)では、災害や感染症で事務所が使えなくなったときに記録をどう守るかを決めておく必要があります。紙だけの保管は、持ち出しと滅失の両方に弱いという事実があります。なお保存の年数は自治体の条例で扱いが異なるため、必ず指定権者の定めを確認してください。
科学的介護情報システム(LIFE)へのデータ提出を考える場合も、紙からの転記が負担になります。提出するために改めて項目を集めるのではなく、日々の記録の中に提出で使う項目が最初から入っている形が望ましい。ここまで来ると、記録の入口そのものを変える判断が必要になります。紙の工夫の延長では届かない領域です。
- 同じ日の記録を複数の職員が同時に見たいのに、紙は一枚しかない
- モニタリングや計画見直しの期限が、紙の一覧では知らせてくれない
- 加算の要件を満たした回数を数える作業が、紙では一枚ずつめくる作業になる
- 業務継続計画(BCP)で、記録の持ち出しと滅失への備えを決める必要がある
- 科学的介護情報システム(LIFE)向けの項目を、紙から転記し直している
5. システム化するなら、記録の入口から
順番があります。最初に手を入れるのは、記録の入口です。現場で手元の端末から直接入れられる形にします。紙に書いてから打ち直す工程そのものがなくなります。入力画面は、整え直した手書き様式と同じ並び順にします。普段使う言葉は選択肢にし、文字を打つのは特記事項だけにします。手袋をしたままでも押せる大きさのボタンにするなど、現場の条件に合わせる必要があります。
次に、集計を自動にします。日々の記録に入れた項目から、加算の要件を満たした回数、記入漏れのある日、提出が近い書類を自動で並べます。ここで大事なのは、集計の結果を月末ではなく毎日見られるようにすることです。要件を満たしていない日がその日に分かれば、まだ手当てができます。月末に分かっても、もう手当てはできません。
請求との関係は、線を引いておくのが現実的です。国保連への介護報酬の請求は、判定も算定も既存の請求ソフトが担います。自社の記録システムは記録と集計までを受け持ち、請求ソフトが読める形のCSVを出力する役割に留めます。算定の判断を二か所に持たせると、制度改定のたびに両方を直す必要が生まれ、必ずどちらかが古くなります。
個人情報の扱いも設計に入れます。介護の記録には健康状態や障害に関する情報が含まれ、個人情報保護法では要配慮個人情報として扱われます。誰がどの利用者の記録を見たかを残す、職種ごとに見える範囲を分ける、端末を紛失したときに中身を消せるようにする。この三つは最初から入れておく項目です。後から足すと、運用のやり直しが発生します。
- まず記録の入口を端末入力にし、紙から打ち直す工程をなくしてしまう
- 入力画面の並び順を、整え直した手書き様式と同じ順番にそろえる
- 加算の要件を満たした回数と記入漏れを、毎日見られる画面に出す
- 請求の算定は既存ソフトに任せ、自社側はCSVを渡すまでに留める
- 要配慮個人情報として、閲覧の記録・権限分け・端末紛失時の対策を最初から入れる
- 紙を残す場所をあらかじめ決め、全部を一度に置き換えようとしない
6. まとめ:順番を間違えないこと
二重入力をなくす作業は、システムの話から始めません。紙の様式とパソコンの入力欄を突き合わせ、並び順をそろえ、加算の要件を日々の記録の中に移す。この三つは今日から始められ、費用もかかりません。やってみると、どこが人の判断を必要とし、どこが機械に任せられる場所なのかを、自分たちの言葉で説明できるようになります。
その整理ができた後に、記録の入口を端末に移します。集計を毎日見られる形にします。請求ソフトへはCSVで渡します。要配慮個人情報の扱いは最初から設計に入れます。この順番を守れば、システムは紙の置き換えではなく、現場の手順そのものの短縮になります。順番を逆にすると、紙が画面に変わっただけで、入力する回数は減りません。
当社は経営コンサルティングを本業としながら、社内のエンジニアがシステム開発を手がけています。介護・福祉の事業所については、様式の突き合わせから一緒に進め、既存の請求ソフトを置き換えずに記録と集計だけを自社専用に作る形を取ることが多くあります。現場の手順を変えずに済む範囲から手を入れたい場合は、介護・福祉向けの業種ページをご覧ください。
- 様式の突き合わせ、並び順の統一、加算項目の移設をまず終わらせる
- システム化は記録の入口から着手し、集計は毎日見られる形にする
- 請求の算定は既存ソフトに任せ、記録側は渡す形を作るまでに留める
よくある質問
紙の記録をやめて、すべて端末入力にするべきでしょうか。
全部を一度に置き換えない方が安全です。手が離せない場面や通信が届かない場所では紙が勝ります。まず書く回数が多い記録から端末に移し、紙を残す場所をあらかじめ決めておきます。残した紙は後から打ち直さず、写真で記録に添える形にすると二重入力になりません。
加算の記録を取りこぼさないために、最初にやることは何ですか。
算定している加算を一覧にし、それぞれで記録に残すべき情報を書き出します。次に、日々の記録のどの欄でその情報を満たせるかを対応づけます。満たせない情報だけ、日々の記録に欄を足します。加算用の別様式を作るのではなく、普段の記録に寄せるのが要点です。
記録は何年保存すればよいのでしょうか。
運営基準で記録の整備と保存が求められていますが、保存する年数は自治体の条例で扱いが異なります。必ず指定権者の定めを確認してください。システムを作る場合は年数を固定で埋め込まず、後から設定で変えられるようにしておくと、改定や事業所の増設に耐えられます。
既存の請求ソフトは入れ替える必要がありますか。
多くの場合、入れ替えずに済みます。記録と集計を自社側で持ち、請求ソフトが読める形のCSVを渡す構成にします。国保連への請求の判定と算定は請求ソフトに任せます。算定の仕組みを二か所に持つと、制度改定のたびに両方を直す必要が生まれ、片方が必ず古くなります。
身体的拘束等の記録や事故の記録は、日々の記録と分けるべきですか。
様式は分けても、入り口は分けない方が漏れません。日々の記録を書く流れの中で該当する区分を選ぶと、必要な項目が続けて出てくる形にします。身体的拘束等の適正化のための記録は、態様や時間、利用者の心身の状況、やむを得なかった理由を残す必要があり、後から思い出して書くのが最も難しい記録です。
まずは30分お話を伺います。
