・問診票のWeb化で最初に減るのは、患者さんが書く時間ではなく受付が打ち直す時間です。目的をそこに置くと、作るべき画面が決まります。
・紙のままでも改善できます。問診票の項目を数え、カルテに打ち直している項目だけを残す。誰も見ていない欄を削るだけで受付の負担は変わります。
・問診票の中身は病歴を含むため、個人情報保護法の要配慮個人情報にあたります。取得にあたっては本人の同意が必要で、院内の誰が見られるかも決めておきます。
・電話予約を全部やめなくてかまいません。Webで受ける枠と電話で受ける枠を分け、電話は変更と相談だけに寄せるのが現実的な第一歩です。
・問診票の回答から重症度を判定する、受診科を提示する。これは診療の判断です。事務の仕組みは集める・集計する・印刷するまでで線を引きます。
1. 受付でよく起きている三つの詰まり
朝の受付で最初に起きるのは、紙の往復です。来院した方に問診票を渡し、待合で書いてもらい、受付が回収する。書き終わるまで呼べないので、診察の順番は問診票の記入速度に引っぱられます。字が読み取れない欄があれば、もう一度声をかけに行く。アレルギーや服用中の薬のように、空欄のまま出てくる項目は毎日ほぼ同じです。ここで待たせているのは診察ではなく紙の受け渡しであることが多いのですが、待合から見ると区別がつきません。
次が電話です。診療時間中の電話は、ほとんどが予約の取得と変更、それに診療時間と持ち物の確認に集中します。受付が電話を取っている間、窓口の列は止まります。取り次ぎのために診察室へ入ることもあります。そして電話には記録が残りません。誰がいつどの枠を受けたのかを後から確かめられないので、二重予約が起きたときに原因をたどれない。結果として、台帳に鉛筆で書いて消すという運用が続きます。
三つめが転記です。問診票に書かれた内容を、受付か看護師がカルテに打ち直す。住所や連絡先は保険証と二重に確認する。この作業は患者さんの目の前では起きないので、院内の誰もどれだけ時間を使っているかを数えていないのが普通です。まずはここを数えるのが出発点になります。一日に何人分を、一人あたり何分で打ち直しているか。付箋に書き留めるだけで十分です。一週間分あれば、見直す価値があるかどうかは判断できます。
- 問診票の記入待ちが発生し、診察の呼び出し順が後ろにずれていく
- 字が読み取れない欄や空欄があり、受付が待合まで聞き直しに行く
- 予約の電話応対をしている間、窓口の列と会計が止まったままになる
- 電話で受けた予約は記録が残らないため、二重予約の原因をたどれない
- 問診票からカルテへの打ち直しが、毎日の見えない残業になっている
2. なぜ転記がなくならないのか
紙の問診票は、たいてい「書いてもらう用紙」として作られています。後工程、つまり受付が何をするかは考えられていません。しかも項目は増築で育ちます。感染症の流行、自費メニューの追加、同意書の差し替え。そのたびに欄が足され、消される欄はありません。結果として、今は誰も見ていない欄が紙の三分の一を占める状態になりがちです。患者さんはそれを律儀に埋め、受付はそれを読み飛ばします。
もうひとつの原因は、問診票の項目とカルテに入力する項目がそろっていないことです。問診票では「お薬手帳をお持ちですか」と聞き、カルテには服薬内容を入れる。問診票では自由記述で書いてもらい、カルテでは決まった選択肢から選ぶ。項目の形が違えば、あいだに必ず人の読み替えが入ります。転記は担当者の手際の問題ではなく、様式の不一致から自動的に発生する作業です。ここを直さずに人を増やしても、増えた人がまた打ち直すだけになります。
そして、この紙は誰の担当でもありません。院長は診療中で、事務長は請求と人の手配に追われ、電子カルテやレセプトコンピュータのベンダーは紙の問診票まで面倒を見ません。改善の担当者が決まっていないので、毎年同じ不便が持ち越されます。逆にいえば、担当者と見直す日を決めた時点で半分は進みます。棚卸しそのものは、院内の誰でもできる作業です。
- 問診票は記入用に作られ、受付が後で何をするかが考えられていない
- 流行や新メニューのたびに欄が足され、削られる欄がないまま増築される
- 問診票の項目とカルテの入力項目が違うため、人の読み替えが必ず入る
- 紙の様式を見直す担当者が決まっておらず、毎年そのまま持ち越される
3. 紙のままでも今日からできること
最初にやるのは項目の棚卸しです。今の問診票を一枚印刷して、欄ごとに三色で印をつけます。カルテに打ち直している項目、その場で読むだけの項目、誰も見ていない項目。所要時間は十五分ほどです。誰も見ていない項目はその場で削れます。これだけで患者さんの記入時間は短くなり、読み取る側の視線も減ります。削る判断がつかない欄は、一か月だけ残して誰かが使ったかを確かめると決めてしまえば先に進めます。
次に、渡すタイミングを前に出します。初診の方向けにホームページへ問診票のPDFを置き、印刷して記入のうえ持参していただけるよう案内する。印刷できない方のために、受付で渡す紙も当然そのまま残します。再診の方には、前回の内容を控えとして渡しておき、変わった点だけを書いていただく。これは仕組みを入れ替えなくてもできます。待合で白紙から書き始める人を減らすのが狙いです。
電話についても、まず中身を数えます。一週間だけ、受付の手元に用紙を置き、一件ごとに「新規予約」「変更・キャンセル」「診療時間や持ち物の確認」「その他」の四つに印をつけます。確認の電話が多ければ、その答えをホームページの目立つ位置とお知らせ欄に出します。駐車場、保険証とマイナンバーカードの扱い、初診の受付時刻、休診日。よく聞かれる順に並べるだけで、電話の総数は動きます。
最後に、様式を書きやすい形に寄せます。自由記述を減らし、選択肢に置き換える。たとえば「気になる症状」を自由記述から選択式へ変えると、患者さんは選ぶだけになり、受付は読み取りに迷わなくなります。選択肢の中身は院内で決める言葉でそろえ、カルテに入力するときの言い方と一致させる。ここまで紙でそろえておくと、あとでWeb化するときに画面の項目をそのまま写すだけで済みます。
- 問診票を一枚印刷し、欄ごとに「打ち直す・読むだけ・見ていない」で印をつける
- 誰も見ていない欄を削り、判断に迷う欄は一か月だけ残して使用実績を見る
- 初診向けの問診票PDFをホームページに置き、記入して持参する選択肢を作る
- 再診の方には前回の控えを渡し、変わった点だけを書いてもらう形にする
- 電話を一週間分、予約・変更・確認・その他の四種類に分類して数える
- 自由記述を選択式に置き換え、選択肢の言葉をカルテの言い方とそろえる
どんなものを作っているかをまとめました。
4. 問診票は要配慮個人情報です
問診票には病歴や服薬の内容が書かれます。これは個人情報保護法で要配慮個人情報と位置づけられている情報で、取得にあたっては原則として本人の同意が必要です。あわせて、何のために使うかという利用目的を特定し、本人が分かる形で通知または公表しておく義務があります。紙でもWebでも、この義務は同じです。Web化のときに見落としやすいのは、同意を取る画面と文面です。送信ボタンの前に、何を取得し何に使うのかを置いておく。これは画面設計の話として、作る前に決めてしまうのが安全です。
回答をWebで集めるなら、通信の暗号化、保存する場所、見られる人の範囲、そして誰がいつ見たかの記録を決めます。判断のよりどころになるのは、厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」です。あわせて、事業者側に求められる内容が総務省・経済産業省のガイドラインに整理されています。いずれも改定されるため、契約前に最新版の版数を確かめるのが実務です。外部の事業者に預ける場合は、委託先を監督する義務が医院側に残る点も押さえておきます。
もうひとつ気をつけるのが、案内文の書き方です。医院のホームページは医療広告ガイドラインの対象になります。患者さんの体験談を広告に使うこと、治療の前後を比べる写真を無条件に載せることには制限があります。Web問診を始めたときの案内文も、ホームページに載せれば同じ土俵に乗ります。書きやすくなりました、という事実の説明にとどめるのが無難です。待ち時間が何割短くなる、といった書き方は根拠を示せないかぎり避けます。
最後に線引きです。薬機法では、診断や治療の判断に関わるプログラムはプログラム医療機器として規制の対象になりえます。問診票の回答から重症度を判定する、受診すべき科を自動で示す、といった機能はこの領域に踏み込みます。事務の仕組みとして作るなら、集める・集計する・印刷するまでで止める。判断は医師が行い、仕組みは材料を並べるだけ。この線を最初に紙の上で引いておくと、開発の途中で迷いません。
- 問診票の病歴は要配慮個人情報にあたり、取得には本人の同意が必要になる
- 何のために使うかという利用目的を特定し、本人に分かる形で通知または公表する
- 医療情報システムの安全管理に関するガイドラインを、最新版の版数で確認する
- 外部の事業者に預けた場合でも、委託先を監督する義務は医院側に残る
- ホームページの案内文は医療広告ガイドラインの対象。体験談や比較写真に注意
- 重症度の判定や受診科の提示には踏み込まず、集計と印刷までで線を引く
5. 仕組みにするなら何から始めるか
予約と問診票を同時に変えないことをお勧めします。両方いっぺんに替えると、受付の手順が一日で全部変わり、慣れる前に紙に戻ります。先に動かすのは問診票です。理由は、効果が受付の手元に直接出るからです。打ち直しがなくなる、空欄を聞き直さなくなる。目に見える変化が先に来ると、次の予約の見直しにスタッフが付き合ってくれます。予約を先にすると、電話は減っても受付の作業量はあまり変わらず、手応えのないまま次に進めなくなることが多いです。
作る順番は四つです。一つめ、項目を確定する。前の章の棚卸しがそのまま仕様になります。二つめ、患者さんが入力する画面。スマートフォンで指が届く大きさ、選択肢中心、途中で中断しても困らない作り。三つめ、受付が見る一覧。来院予定の方の回答が、名前と受付時刻で並ぶ画面です。四つめ、書き出し。印刷と、CSVでの受け渡しを用意します。電子カルテやレセプトコンピュータを入れ替える必要はありません。多くの院内システムはCSVの取り込みができますし、できなければ一覧を印刷してカルテに綴じる運用で足ります。
そして、紙を残す前提で設計します。スマートフォンを使わない方は必ずいらっしゃいます。窓口にタブレットを置く、紙で書いていただいて受付が代わりに入力する、紙のまま綴じる。どの経路でも同じ項目がそろうようにしておけば、集計は崩れません。むしろ難しいのは二つの受付手順を文章にして、全員が同じ順で動けるようにすることです。ここを決めずに機器だけ入れると、入力済みの方と未記入の方が待合で混ざり、受付が余計に混乱します。
当社TRUSTEP JAPANは経営コンサルティングを本業とし、社内のエンジニアが医院の事務業務に合わせたシステムを作っています。扱うのは院内の事務と運営に限り、電子カルテやレセプトコンピュータ、プログラム医療機器は作りません。問診票の収集と集計、印刷、既存システムへのCSV受け渡しまでが範囲です。進め方の詳細は業種ページ(/industries/medical.html)に整理しています。
- 予約と問診票は同時に変えず、効果が受付に直接出る問診票から始める
- 項目の確定、入力画面、受付の一覧、印刷とCSV書き出しの順に作る
- 電子カルテは入れ替えず、CSVの受け渡しか一覧の印刷でつなぐ
- スマートフォンを使わない方のために、窓口での入力と紙の経路を残す
- 紙とWebの二つの受付手順を文章にして、全員が同じ順で動けるようにする
6. まとめ:集めて渡すまでを設計する
問診票のWeb化は、患者さんに便利になってもらう話として語られがちです。ただ実際に院内で最初に変わるのは、受付が打ち直す時間と、空欄を聞き直す往復です。だから設計の出発点は、画面の見栄えではなく今どの項目をどこへ打ち直しているかになります。この一覧は院内でしか作れません。逆にこれができていれば、仕組みの作り方は後から決められます。
進め方をもう一度並べます。項目を棚卸しして削る。渡すタイミングを来院前に出す。電話の中身を一週間数える。自由記述を選択式に寄せる。ここまでは今の紙のままできます。そのうえでWeb化するなら、要配慮個人情報としての同意と利用目的、安全管理のガイドライン、案内文の書き方を先に固める。そして診療の判断には触れず、集めて集計して印刷するまでで線を引く。この順で進めれば、途中で紙に戻ることはほとんどありません。
- 変えるのは診療ではなく、問診票を集めて受付が渡すまでの事務の手順
- 紙の棚卸し、来院前の配布、電話の分類、選択式への変更は今日からできる
- Web化の前に、同意の取り方と安全管理のよりどころを文章で固めておく
- 判断は医師が行い、仕組みは集計と印刷までを担うという線を最初に引く
よくある質問
電子カルテを入れ替えないと、Web問診は使えませんか。
入れ替えは必要ありません。問診票の回答を受付の画面で一覧にし、印刷してカルテに綴じるだけでも転記は減ります。CSVの取り込みができる院内システムであれば、書き出したファイルを渡す形でつなげます。まず問診票だけを独立して動かし、連携は後から足すほうが、受付の混乱が小さくて済みます。
高齢の患者さんが多く、スマートフォンでの入力は難しそうです。
全員にWebで入力していただく前提にしないことです。窓口にタブレットを置いて受付が横で手伝う、紙に書いていただいて受付が代わりに入力する、紙のまま綴じる。この三つを並行して残します。どの経路でも同じ項目がそろうようにしておけば集計は崩れません。大事なのは、二つの受付手順を文章にして全員で共有することです。
問診票の回答を外部のサービスに保存しても問題ありませんか。
病歴を含むため要配慮個人情報として扱う必要があり、保存場所や見られる人の範囲、閲覧記録の残し方を決めておきます。判断のよりどころは厚生労働省の医療情報システムの安全管理に関するガイドラインです。改定されるため、契約前に最新版の版数で確認してください。外部に預けても、委託先を監督する義務は医院側に残ります。
記入済みの問診票は何年保存すればよいですか。
医師法では診療録の保存期間が五年と定められています。紙の問診票をカルテに綴じて診療録の一部として扱っている場合は、それに合わせて保存している医院が多いです。別の書類として扱う場合の期間は院内規程で決めることになります。どちらの扱いにするかは自院の運用に応じた判断が必要で、この点は要検証としてください。
問診の回答から、受診科や急ぎ具合を振り分けることはできますか。
事務の仕組みとしては行いません。問診票の内容から重症度を判定したり受診すべき科を示したりする機能は、診療の判断に関わるため、薬機法のプログラム医療機器の領域に踏み込みます。当社が作るのは、回答を集めて一覧にし、印刷や書き出しで院内に渡すところまでです。判断は医師が行い、仕組みは材料を並べる役に徹します。
まずは30分お話を伺います。
