・Excelが悪いのではなく、同じ数字を何度も書き写す手順が原因である。まず 転記の回数 を数える。
・台帳の正本を一つに決めるだけで精度は上がる。品番・工程・単位の 呼び方を先に統一 してから直す。
・限界は人ではなく件数で来る。多品種化、短納期、担当者の交代が重なった時点が切り替えの合図になる。
・法令で求められる記録は後回しにできない。定期自主検査や検査記録、電子取引の保存は仕組みの中に置く。
・システム化は全部同時ではなく 製造指図と工程実績 の入口から始める。原価と分析は後から乗る。
1. よくある状態:板書と転記で回る一日
朝礼でホワイトボードに今日の段取りを書く。急ぎの差し込みが入ると、マグネットを動かす。現場は紙の作業日報に数量と時間を書き、事務所がそれをExcelに打ち直す。月末に原価の表を作るため、同じ数字をもう一度別の表へ写す。多くの製造現場で、これが毎日の標準の姿になっています。悪いのは人ではありません。情報の置き場所が別々なので、人が運ぶしかない構造になっているだけです。
この状態で一番の負担になるのは、作業そのものではなく 確認 です。客先から納期を聞かれると、ホワイトボードを見て、現場に電話して、仕掛の山を数えに行く。在庫があるかを聞かれると、現品を見に行く。帳簿に引当の記録がないため、現場を歩かないと答えが出ません。結果として答えを出せる人が一人か二人に限られ、その人が休むと会社の判断が止まります。
もう一つの負担は、記録が後から出てこないことです。あの客先の、あの型番を、いつどの材料で作ったか。問い合わせやクレームが来てから、日報の束と図面の控えを探し始める。探せば出てくることもありますが、出てこないこともあります。これは手間の問題ではなく、説明できるかどうかの問題です。製造物責任法 のもとでは、引き渡した製品について説明を求められる場面があります。
- 納期回答に、ホワイトボードと電話と現場歩きの三つが必要になっている
- 同じ数量を、作業日報と生産管理表と原価表に三回書き写している
- 在庫はあるのに、どの指図に引き当て済みかが帳簿に残っていない
- 過去のロットをたどるとき、日報の束と図面の控えを探し回っている
- 納期と在庫をすぐ答えられる人が、社内で一人か二人に限られている
2. なぜそうなるのか:台帳が複数ある
原因は能力ではなく、台帳が複数ある ことです。受注はメールと注文書、指図は手書きの伝票、進捗はホワイトボード、在庫は現品、原価は締めた後のExcel。それぞれが別の場所にあり、どれが正しいかを決める人がいない。だから突き合わせが必要になり、突き合わせるために転記が発生します。転記が増えると、どの表が最新か分からなくなり、また突き合わせる。この輪が回り続けます。
Excelが限界を迎える理由もここにあります。Excelは一人が一度に一つの表を見るための道具です。同時に複数人が触る、履歴を残す、前の版に戻すといった使い方は想定されていません。ファイルが「生産管理表_最新_B_修正」のように増えていくのは、道具の性質に無理をさせている証拠です。関数が複雑になるほど、作った本人以外は直せなくなり、その人が異動すると誰も触れなくなります。
見落とされやすいのが、言葉の不統一です。同じ部品を、営業は図番で呼び、現場は略称で呼び、購買は仕入先の品名で呼ぶ。工程の名前も人によって違う。単位も、本とメートル、kgと枚が混ざる。計量法 は取引や証明に使う計量について決まりを置いていますから、出荷数量の単位はとくに曖昧にできません。言葉が揃っていない台帳は、どんな道具に移しても揃いません。
- 受注・指図・進捗・在庫・原価が、それぞれ別の台帳に散っている
- どの表が正しいかを決める人がいないので、毎回突き合わせている
- 同じ部品を、営業と現場と購買がそれぞれ別の呼び方で呼んでいる
- 本とメートル、kgと枚のように、同じ品目で単位が混ざっている
- ファイル名に日付と担当者名を足して、版を見分けようとしている
3. 今のやり方でも今日からできること
最初にやることは、新しい道具を探すことではありません。転記の回数を数える ことです。一枚の注文から出荷までに、同じ数字が何回書き写されているかを紙に書き出します。三回以上写している数字があれば、そこが直すべき場所です。たいていは数量、納期、品番の三つが出てきます。この棚卸しは半日あればできますし、後でシステムを検討するときの要件そのものになります。
次に、台帳の正本を一つ決めます。「数量と納期はこの表が正しい」と社内に宣言し、他の表はそこから写すだけにする。同時に、品番・工程名・単位の呼び方を一覧にして現場の壁に貼ります。この一覧が、後からどんな道具を入れても土台になります。ここで決めた呼び方を変えずに運用できるかどうかが、Excelのままでも精度が上がるかどうかの分かれ目になります。
三つめは、現場が書く場所を一か所にすることです。作業日報と検査記録と不具合のメモが別の紙なら、一枚にまとめます。入力項目は、指図番号、品番、良品数、不良数、不良の理由、作業時間、作業者の七つから始めます。項目を増やしたくなりますが、増やすと書かれなくなります。書かれない項目は、ない項目と同じです。足すのは、七つが定着してからで十分です。
四つめは、法令で求められる記録を日常の流れに入れることです。労働安全衛生法 は、一定の機械や設備について定期自主検査と記録の保存を事業者に求めています。見積や注文書、請求書を電子でやり取りしているなら、電子帳簿保存法 が電子取引の保存を求めます。どちらも、思い出したときにまとめて作る形では必ず抜けます。日々の記録と同じ場所に置くのが唯一の対策です。
- 一つの注文から出荷までに、同じ数字を何回書き写すかを数えてみる
- 数量と納期の正本をどの表にするかを決め、社内に宣言しておく
- 品番・工程名・単位の呼び方を一覧にして、現場の壁に貼り出す
- 現場が書く紙を一枚に統合し、入力項目は七つ程度に絞っておく
- 定期自主検査や電子取引の記録を、日常の記録と同じ場所に置く
どんなものを作っているかをまとめました。
4. それでも限界が来る場面
今の手順を整えれば、しばらくは回ります。限界は、人の頑張りが足りないから来るのではなく、件数と品種 が増えたときに来ます。扱う品番が増える、一回あたりの数量が小さくなる、納期が短くなる。この三つが重なると、組み合わせの数が人の頭で追える範囲を超えます。段取り替えの回数が増え、どの順番で流すかの判断が毎時間必要になり、判断が遅れた分だけ機械が止まります。
もう一つの合図は、人の入れ替わりです。長く見ていた人が抜けた瞬間に、ホワイトボードの意味が分からなくなる。Excelの関数を誰も直せなくなる。引き継ぎ資料を作ろうとして、手順が文書になっていないことに気づく。このときに初めて、台帳が人の頭の中にあったと分かります。採用や退職が決まってから慌てるより、前に動いたほうが安く済みます。
三つめは、客先から説明を求められる場面です。不具合が出たときに、同じ材料のロットで作った製品がどこまで出荷されているかを示す。使った設備と検査の記録を出す。取引先の監査で、記録の保存状況を見られる。ロットの追跡 ができる状態かどうかが、そのまま交渉の持ち時間になります。紙の束を探す方法では、求められた期間に間に合いません。
- 品番が増え、数量が小さく、納期が短い注文が同時に増えてきた
- 段取り替えの順番を、毎日その場で判断し直すようになってきた
- 長く見ていた担当者が抜ける予定があり、引き継ぎ資料が作れない
- 材料のロットから出荷先までを、求められた期間内にたどれない
- 取引先の監査や品質要求で、記録の提出を求められるようになった
5. システム化するなら何から始めるか
最初に作るのは、原価計算でも分析画面でもありません。製造指図と工程実績の入口 です。受注から指図を起こし、現場が端末で着手と完了と数量を押す。この二つが入れば、進捗が自動で見え、ホワイトボードを写す作業が消えます。原価や歩留まりは、この実績の上に後から乗ります。順番を逆にして原価から作ると、入れる実績がないまま画面だけができあがります。
二番目は、材料の引当とロットの記録です。指図ごとに部品表を展開し、どの在庫をどの指図に引き当てたかを帳簿に残す。受け入れた材料のロット番号を、使った指図に結びつける。これができると、在庫があるのに足りないという状態が消え、材料から製品、製品から出荷先の両方向でたどれるようになります。追跡は過去分を後から作ることができません。始めた日から先の分だけが残ります。
三番目が、検査記録と原価です。検査は、規格値と判定をその場で入れ、外れたら不適合として記録が残る形にします。原価は、材料費と作業時間の実績が入っていれば指図ごとに積み上がります。見積のときの原価と実際の原価の差がどこで出たかが見えるようになり、受注の判断が変わります。ここまで来ると、締めた後に表を作り直す作業がなくなります。
道具の選び方は、機能の多さではなく、現場が一日に何回触るかで決めます。手袋をした手で押せるか、通信が切れても入力できるか、間違えた実績を直せるか。この三つを実機で試してから決めてください。既製のパッケージで足りるなら、それが一番安い選択です。手順が特殊で合わない場合は、自社の手順に合わせて作る選択もあります。当社でもその相談を受けていますが、まずは転記の棚卸しを自社で済ませてからのほうが、何を頼むかが明確になります。
- 第一段は、製造指図の発行と工程実績の入力の二つだけに絞る
- 第二段で、部品表の展開と在庫引当、ロットの記録を足していく
- 第三段で、検査の記録と指図別の原価集計をつなげていく
- 現場の端末は、手袋・通信断・入力訂正の三点を実機で試す
- 過去分の追跡は作れないため、記録は早く始めた分だけ残る
6. まとめ:順番を間違えないこと
生産管理の改善は、道具を買うことではなく、転記を減らすことです。手順としては、転記の棚卸し、台帳の正本決め、呼び方の統一、現場の入力を一か所にすること。ここまでが今日からできる範囲で、どれも費用はかかりません。そのうえで件数と品種が増え、人が入れ替わり、説明を求められる場面が出てきたら、製造指図と工程実績の入口からシステムへ移します。
この順番を守ると、システムを入れたのに現場が使わないという失敗が起きにくくなります。逆に、呼び方が揃っていないまま道具だけ入れると、Excelのときと同じ混乱がそのまま移るだけです。先に整えるのは言葉と台帳、後から入れるのが道具。この一点を覚えておけば、検討の順番を間違えません。自社の手順に合わせた形を具体的に見たい場合は、製造・加工業の業務システムの設計の考え方をまとめたページもあわせてご覧ください。
よくある質問
Excelでの生産管理は、どれくらいの規模まで持ちますか
規模の数字では決まりません。判断の目安は、同じ数字を何回書き写しているか、納期と在庫をすぐ答えられる人が何人いるか、の二つです。転記が三回以上あり、答えられる人が一人か二人なら、件数が増えた時点で止まります。品番数や社員数よりも、この二つを先に見てください。
システムを入れると、現場の入力が増えて反発されませんか
入力項目を絞れば増えません。最初は指図番号、品番、良品数、不良数、不良の理由、作業時間、作業者だけで始めます。紙の日報に書いていた内容とほぼ同じなので、書く場所が紙から端末に変わるだけです。項目を増やしたいという要望は、最初の運用が定着してから検討してください。
ロットの追跡は、過去の分までさかのぼれますか
さかのぼれません。追跡は、材料の受け入れと使用の記録を結びつけることで成り立つため、記録がない期間は再現できません。日報が残っていれば手作業で一部たどれることもありますが、求められた期間に間に合う方法ではありません。だからこそ、必要になる前に始める価値があります。
法令で求められる記録は、システムに入れないといけませんか
義務は記録と保存であり、紙でも成立します。ただし労働安全衛生法の定期自主検査のように、検査と記録が定められているものは、思い出したときに作る形だと抜けます。電子でやり取りした注文書や請求書は電子帳簿保存法の電子取引の保存の対象です。日常の記録と同じ場所に置くほうが確実です。
既製のパッケージと自社専用、どちらを選ぶべきですか
先に転記の棚卸しをしてから決めてください。棚卸しの結果が一般的な受注生産の流れに収まるなら、パッケージで足ります。多品種少量で工程の組み替えが多い、客先ごとに検査や帳票の様式が違うといった事情があると、合わせ込みの費用が積み上がります。比較できる材料を自分で持つことが先です。
まずは30分お話を伺います。
