📌 本記事の結論(先に要点)

・期限を落とす原因は注意力ではなく、期限が生まれる場所と管理する場所が別になっていることにある。順番としては台帳を先に作る。
・決算月・課税区分・納期の特例・受託業務の範囲の四つが決まれば、一年分の期限は計算で並べられる。手帳へ写す作業はそこで終わる。
・法定期限とは別に所内期限を併設する。法定期限しか持たない台帳は、資料待ちで止まったときに打つ手が残らない。
・業務処理簿、預り金の区別管理、インボイス制度、電子帳簿保存法。記録の義務は請求と進捗の記録から自動で起こすのが確実である。
・システムは税務判断や法律判断を代わりに行うものではない。判断する人が全体を一目で見られるよう、記録と期限と請求をそろえるのが役割になる。

1. よくある状態:期限が担当者の頭の中にある

繁忙期の事務所でよく見かける光景があります。申告期限は担当者が覚えている。登記の期限は手帳に書いてある。補助金や助成金の締切は顧問先からのメールに埋もれている。所長が全体を確認するには、担当者に一人ずつ声をかけるしかありません。この状態でも、人数が少ないうちは回ります。覚えている人が全部見ているからです。問題が出るのは、職員が増えたときと、担当者が替わったときです。引き継ぎのたびに期限の棚卸しが必要になり、その棚卸し自体が記憶に頼るため、抜けたものは抜けたまま次の担当者へ渡ります。

期限を落としたときの重さは業務によって違います。申告期限の超過は無申告加算税や延滞税の話になります。登記や各種申請の期限には、やり直しが効かないものがあります。顧問先への説明と信頼の回復にかかる時間を合わせると、一件の抜けが数か月の負担になります。だから多くの事務所は注意力で防ごうとします。朝礼で確認し、ホワイトボードに書き、二重チェックの担当を置く。それでも抜けるのは、注意力が足りないからではなく、期限の置き場所が決まっていないからです。

2. なぜ抜けるのか。期限の置き場所の問題

期限は事務所の中で自然に生まれるものではありません。顧問先と契約した業務の範囲、決算月、課税区分、納期の特例の承認。この四つが決まった時点で、一年分の期限はほぼ確定しています。たとえば法人税の申告期限は事業年度終了の日の翌日から二か月以内と法人税法に定められており、決算月から計算できます。個人の所得税の確定申告は翌年三月十五日、個人の消費税は翌年三月三十一日です。源泉所得税は原則として支払った月の翌月十日で、納期の特例の承認を受けていれば年二回になります。つまり期限は契約情報から計算できる情報です。

ところが実務では、計算できる期限を人が手で写しています。契約書は紙のファイル、決算月は会計ソフト、期限は手帳。情報の置き場所が三つに分かれているため、写し間違いと写し忘れが構造的に起きます。さらに、国税に関する期限が土日祝に当たる場合は翌開庁日となる扱いが国税通則法に定められています。この補正を各人の判断に任せると、同じ事務所の中に違う日付が並びます。どちらが正しいかを確認する作業が、また一つ増えます。

もう一つの原因は、法定期限しか管理していないことです。法定期限は動かせません。しかし事務所が実際に動かなければならない日は、その手前にあります。資料を集め終える日、内容を確認する日、所長が最終確認する日。この所内期限が台帳に無いと、法定期限の前日になって初めて遅れが見えます。前日に見えた遅れは、もう巻き返せません。

3. 今のやり方のままで今週できること

システムを入れる前に、今のやり方のままでできることがあります。まず、期限の一覧を一枚にまとめます。顧問先名、業務の種類、法定期限、所内期限、担当者、現在の状況。この六列だけで十分です。Excelでもかまいませんが、一人一枚にはしません。事務所で一枚だけ持つのが条件です。ここで大事なのは表の完成度ではなく、全員が同じ一枚を見ることです。二枚目ができた時点で、この手当ては効かなくなります。

次に、所内期限の決め方を事務所の規則にします。法定期限の何営業日前を所内期限にするかを、業務の種類ごとに決めて表に書きます。担当者の感覚で決めると、繁忙期に差が出ます。あわせて、期限が土日祝に当たったときの扱いも一行で書いておきます。判断の余地をなくすことが目的です。規則が一枚あれば、新しく入った職員にも同じ基準で引き継げます。

三つめは、資料回収の記録です。依頼した日、依頼した書類、届いた日を顧問先ごとに残します。メールの本文を探すのではなく、一覧の行として残すのが要点です。これだけで「言ったつもり」が消えます。顧問先側で止まっているのか事務所側で止まっているのかが、所長の目で判断できるようになります。催促の重複もなくなり、顧問先への連絡の質が上がります。

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4. それでも限界が来る三つの場面

一枚の表と規則で、しばらくは回ります。限界は三つの場面で来ます。一つめは顧問先が増えたときです。期限の行数が数百を超えると、人の目で残り日数を見る作業そのものが仕事になります。表を開いて並べ替えて、担当者に確認して、更新する。この時間が毎朝積み上がります。確認のための作業が増えるほど、本来の業務に使える時間が減っていきます。

二つめは、記録の義務が重なってくる場面です。税理士法では、委嘱者別に受託の年月日、業務の内容、顛末、報酬額を記載した業務処理簿を作成し、閉鎖後五年間保存することが求められます。弁護士では、日本弁護士連合会の弁護士職務基本規程により、依頼者から預かった金銭を事務所の金銭と区別して保管し、委任の終了に際して清算することが定められています。請求の面ではインボイス制度の記載事項があり、電子でやり取りした請求書や領収書は電子帳簿保存法にしたがって電子データのまま保存する必要があります。これらを別々のファイルで管理すると、同じ事実を何度も手で書くことになります。

三つめは、担当の交代と採算の話が同時に来る場面です。誰がどの顧問先に何時間かけているかが分からないと、料金の見直しも増員の判断も勘になります。工数を記録していない事務所では、負荷の偏りも不採算の顧問先も所長の体感でしか把握できません。体感で決めた増員は、繁忙期が明けてから効果を検証できません。

5. 仕組みにするなら、どこから着手するか

最初に作るのは期限ではなく台帳です。顧問先ごとに、契約した業務の範囲、決算月、課税区分、納期の特例の有無、担当職員を一か所に持ちます。ここが決まると、期限は計算の結果として出せるようになります。逆に台帳が無いまま期限管理だけを導入すると、期限を人が手で登録し続けることになり、手帳が画面に変わっただけで終わります。導入がうまくいかない事務所は、たいていこの順番が逆になっています。

次に、期限の自動生成と督促です。台帳の情報から一年分の期限を起こし、法定期限と所内期限を対で持たせます。残り日数に応じて担当者へ通知し、期日が近づけば所長にも同時に届く。超過したものは所長の画面に自動で上がる。通知の段数は、三十日前、十四日前、七日前、前日、超過のように決めておくと、受け取る側が慣れます。同じ期限で同じ通知を重ねて送らない仕組みも、最初に入れておきます。

その後に、資料回収、報酬請求、工数の記録をつなげます。請求は顧問料、決算報酬、スポットの報酬、立替実費を同じ画面で集計し、インボイス制度の記載事項を満たす形で出します。源泉徴収の対象になる報酬と、印紙や登録免許税のような立替実費は区分して持ちます。業務処理簿は、申告書を提出した記録や相談の記録から自動で起票する形にすると、書き忘れが構造的に起きなくなります。自動で起こした行と手で補記した行を区別して残しておけば、後から経緯を確認できます。

当社はこの順番で、顧問先台帳から期限、請求、工数までを一つにする業務システムを作っています。税務判断や法律判断そのものを機械に置き換えることはしません。判断するのは資格を持つ人であり、システムの役割は、判断する人が全体を一目で見られるよう記録と期限と請求をそろえることだと考えています。

6. まとめ:期限は人ではなく台帳が覚える

期限を落とさない事務所は、注意深い人がいる事務所ではありません。期限が契約情報から自動で起き、所内期限が併設され、進み具合が全員に見えている事務所です。順番は、台帳、期限、督促、記録。この順を飛ばして通知だけを入れても、入力の手間が増えて終わります。逆に台帳がそろっていれば、通知や請求はその上に後から足せます。

今日からできることは、期限一覧を事務所で一枚にすることと、所内期限の決め方を規則にすることです。この二つで足りなくなったときが、仕組みへ移す時期です。士業・会計事務所の業務システムについては、業種ページで顧問先台帳と期限管理の作り方をまとめています。

よくある質問

期限管理はExcelでどこまでやれますか

顧問先が数十件で担当者が数人までなら、一枚のExcelでも回ります。条件は、事務所で一枚しか持たないことと、法定期限と所内期限を両方の列で持つことです。行数が数百を超えて、並べ替えと確認が毎朝の作業になってきたら、期限が自動で起きる仕組みへ移す時期だと考えてよいと思います。

法定期限はシステムが自動で判断してくれますか

日付の計算は自動化できます。たとえば法人税の申告期限は事業年度終了の日の翌日から二か月以内と定められており、決算月から計算できます。国税の期限が土日祝に当たる場合に翌開庁日となる扱いも、規則として組み込めます。ただし課税区分や特例の適用そのものの判断は資格者が行う前提で、システムは計算と通知を受け持ちます。

業務処理簿は手で書くしかないのでしょうか

税理士法では、委嘱者別に受託の年月日、業務の内容、顛末、報酬額を記載した業務処理簿を作成し、閉鎖後五年間保存することが求められます。申告書の提出や相談の記録がシステムに入っていれば、その記録から下書きを自動で起こせます。補記は人が行い、自動で起こした行と手入力の行を区別して残すと、後から経緯を確認できます。

預り金の管理はどう持つのが安全ですか

弁護士職務基本規程では、依頼者から預かった金銭を事務所の金銭と区別して保管し、委任の終了に際して清算することが定められています。システム上は、事件別の預り金残高と口座の実残高を照合できる形にし、残高がマイナスになる動きと、事件が終わった後も残っている預り金を一覧で出せるようにしておくのが実務的です。

電子帳簿保存法への対応は請求の仕組みに含められますか

電子でやり取りした請求書や領収書は、電子データのまま保存する必要があります。保存の際には改ざんを防ぐ措置と、取引年月日・取引金額・取引先で検索できる状態が求められます。請求の発行と資料の受け渡しを同じ台帳で扱えば、保存と検索の要件を日々の業務の流れの中で満たせます。

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飛
飛田 昌邦(TRUSTEP JAPAN株式会社 代表取締役)
大手総合商社で12年間営業に従事し、年間優秀社員賞を7回受賞。2020年に創業し、経営・営業・人材育成の支援実績は400社以上。現在は経営・営業・人材育成のプロと社内のエンジニアによるチームで、中小企業の業務システムを一緒につくり、使いこなせるまで伴走している。認定経営革新等支援機関。