・入金消込が終わらない原因は担当者の腕ではなく、請求のデータと入金のデータが別の場所にあることにある。まず両者を同じ形の表に並べる。
・振込名義は必ずゆれる。カナの全角半角、濁点、法人格の表記を機械で揃えてから照合すると、人が見る行は突合できない入金だけに絞られる。
・全額一致だけを自動で消し、過入金・不足・名義不明・複数月分は「消込待ち」として別の箱に積む。この切り分けが遅れを止める最短の一手である。
・滞納督促は段階と次回アクション日を記録として持つ。何日目に誰が何をしたかが残れば、担当者が替わっても督促の流れが止まらない。
・賃貸住宅管理業法は家賃等を自社の固有財産と分別して管理することを求める。消込の設計は口座と報告の設計と一体で考える必要がある。
1. 通帳を開いてExcelに写す月初
月初の数日、担当者が通帳の記録を開き、Excelの請求一覧と見比べている。入金があった行に色を塗り、入っていない行を黄色で残す。これが多くの賃貸管理会社の入金消込である。悪い方法ではない。管理戸数が数十なら十分に回る。問題は、この作業が担当者一人の頭の中で完結していることだ。どの入金がどの請求に当たるのか、なぜこの行を保留にしたのか、記録はExcelのセルの色にしか残らない。
困るのは例外のときである。振込名義が入居者本人ではなく親の名前になっている。二か月分がまとめて振り込まれている。家賃から振込手数料が引かれて数百円足りない。共益費だけ入って駐車場代が入っていない。こうした行は判断が要る入金であり、担当者はその都度考えて処理する。考えた結果はどこにも残らないので、翌月また同じ名義の入金で同じ時間を使うことになる。
滞納督促はさらに属人的になる。誰にいつ電話したか、いつ払うと言われたか、督促状を出したかどうか。手帳とメールの送信済みフォルダを探せば出てくるが、探さないと出てこない。担当者が休んだ日に入居者やオーナーから問い合わせが来ると、会社として何も答えられない。経営者がこの状態を不安に感じるのは、感覚として正しい。
- 請求一覧はExcel、入金記録は通帳と、置き場所が分かれている
- 保留にした理由がセルの色にしか残らず、翌月の担当者に引き継げない
- 振込名義が契約者と違う入金を、毎回その場の判断で処理している
- 督促の履歴が手帳とメールに散り、担当者不在の日に答えられない
- 過入金と不足の扱いが人によって違い、翌月の未収額が合わなくなる
2. 消込が終わらないのは腕の問題ではない
原因は三つに分けられる。一つめは、請求の側のデータが確定していないことだ。家賃・共益費・駐車場・水道の合計をいくら請求したのか、口座振替なのか振込なのか、支払期日は何日なのか。これが一覧として毎月同じ形で出てこないと、入金と並べる相手がいない。多くの会社では請求書そのものは出しているが、請求の一覧が月ごとの表として残っていない。
二つめは、振込名義のゆらぎである。銀行から届く入金データの名義は、カナの全角と半角、濁点の有無、法人格の書き方がまちまちだ。人間なら同じ相手だと分かるが、機械は別人として扱う。だから「人が見ればすぐ分かる」という前提のまま作業が残り続ける。ここを一つの形に直す手順を決めない限り、照合はいつまでも手作業のままになる。
三つめは、例外の置き場所がないことだ。全額ぴったり入った入金は、誰がやっても同じ結論になる。迷うのは過入金、不足、名義不明、複数月分のまとめ払いである。この四種類を入れる箱を用意していないと、迷った行がそのまま請求一覧の中に混ざり続ける。月末になって「この入金は何だったか」を思い出す作業が生まれる。順番が逆である。迷った時点で箱に入れるのが正しい。
- 家賃・共益費・駐車場の内訳を含む請求一覧が、月ごとに確定していない
- 銀行から届く入金データの名義は、カナの表記がそろわないまま来る
- 過入金・不足・名義不明・まとめ払いを入れる箱が決まっていない
- 口座振替の結果ファイルと、振込入金の照合が別の作業になっている
- 消込の結果が、オーナーへ送る収支報告の根拠とつながっていない
3. Excelのままでも効く四つの手当て
システムを入れる前にできることがある。まず請求一覧を毎月同じ形で固定することだ。列は、契約番号・物件と部屋・契約者名・請求月・家賃・共益費・駐車場・水道・その他・合計・支払方法・支払期日の順に決める。毎月この表を作ってから月を始める。手で作っても構わない。大事なのは列の順番と名前を変えないことだ。列が固定されていれば、将来システムへ移すときもそのまま持っていける。
次に、振込名義の対応表を作る。入金データに出てくる名義と、契約者名の対応を一行ずつ書き溜めた表である。「この名義は101号室の契約者の親」といった注記も同じ行に書く。この表は一度作れば資産になる。毎月増えるのは数行だけで、半年もすると大半の名義がすでに載っている状態になる。担当者の頭の中にあった知識が、会社の表に移る。これが属人化を解く実際の手順である。
三つめは、消込待ちのシートを分けることだ。全額一致した入金は請求一覧側で消す。それ以外は理由を書いて別シートへ移す。理由は四つに限定する。過入金、不足、名義不明、複数月分である。理由を自由記述にすると集計できなくなるので、四つだけにする。月末にこのシートを見れば、未処理が何件でどの種類かが一目で分かる。督促の対象もここから出てくる。
四つめは督促である。段階と次回アクション日の二列を請求一覧に足すだけで変わる。段階は「電話・案内」「督促状」「保証会社へ連絡」「専門家へ相談」のように自社の運用で決めた呼び名を使う。次回アクション日は必ず埋める。この二列があれば、朝に日付で並べ替えるだけで今日やることが出てくる。法的な判断が必要な段階まで来たら、記録をそのまま弁護士などの専門家へ渡せる形にしておく。
- 家賃・共益費・駐車場まで分けた請求一覧の列を固定し、毎月使う
- 振込名義と契約者名の対応表を作り、気づいた行は必ずその日に足す
- 消込待ちの理由は過入金・不足・名義不明・複数月分の四つに限る
- 請求一覧に督促の段階と次回アクション日を足し、日付で並べ替える
- 預かった家賃等の口座は、自社の固有財産の口座と明確に分けておく
どんなものを作っているかをまとめました。
4. 表計算で持ちこたえられなくなる場面
表計算での運用は、ある規模を越えると必ず崩れる。崩れ方には順番がある。最初に来るのは担当者が二人になったときだ。同じファイルを同時に開けないので、片方が待つか、コピーを作る。コピーが生まれた時点で、どちらが正しいかが分からなくなる。次に来るのは物件数の増加である。管理する行が千を超えると、並べ替えと絞り込みの操作そのものが重くなり始める。
さらに効いてくるのが制度への対応である。事業用のテナント家賃や、施設として貸す駐車場の料金のように消費税の課税取引になるものには、インボイス制度の下で適格請求書の記載事項が求められる。登録番号や、税率ごとに区分した対価の額と消費税額などである。居住用の住宅の家賃は非課税なので扱いが変わるが、一つの会社が両方を抱えていると、計算式で課税と非課税を切り分け続けることになる。
電子帳簿保存法も関わってくる。メールやネット経由で受け取った請求書や領収書は、紙に印刷して綴じるだけでは足りず、電子データのまま保存することが求められる。保存にあたっては、取引年月日・取引金額・取引先で探せる状態にしておくことなどが条件になる。ファイル名を手で付けて並べる運用では、件数が増えたときに探せる状態を維持できなくなる。
そしてオーナーへの報告である。賃貸住宅管理業法は、受託した管理業務について委託者であるオーナーへ定期的に報告することを求めている。報告の数字は入金消込の結果から作られる。消込が月初に終わらなければ報告が遅れ、報告が遅れればオーナーの信頼が落ちる。入金消込は経理の内部作業ではなく、受託者としての報告義務の入口である。
- 担当者が二人になった時点で、同じファイルを同時に扱えなくなる
- 管理する行が千を超えると、並べ替えと絞り込みの操作が重くなる
- 課税と非課税が混ざる請求を、計算式で切り分け続けることになる
- 電子で受け取った請求書や領収書を、探せる状態で保ち続けられない
- 消込が月初に終わらないと、オーナーへの定期報告がそのまま遅れる
5. システム化は請求と入金の台帳から
システム化を考えるとき、最初に作るべきは画面ではなく台帳である。物件と部屋、契約、請求、入金の四つを別々のデータとして持ち、互いに線でつなぐ。入金の行から請求へ、請求から契約へ、契約から部屋へたどれる状態にする。これができていれば、画面は後から足せる。逆に、画面から作り始めたシステムは、入金の行がどの契約のものか分からないまま動き出してしまう。
次に入れる価値が高いのは自動照合の線引きである。全額が一致した入金だけを自動で消し、それ以外は人の判断に回す。この線を明確にしておくと、自動化への信頼が崩れない。一致の判定の前には、振込名義のカナを機械でそろえる処理を置く。全角と半角、濁点、法人格の表記を一つの形に直してから突き合わせる。これだけで、人が目で見る行はかなり絞られる。
督促は段階と記録として作る。何日目にどの段階へ進むかを一か所の設定として持ち、その日が来たら担当者の画面に出す。システムがやるのは案内と記録であり、判断は人が行う。契約の解除や明渡しのような法的な判断は弁護士などの専門家の領域なので、システム側は経過と催告の記録を整えて渡せる形にしておく。鍵の交換や荷物の持ち出しのような自力での対応に進ませないよう、画面で注意を出す設計にする。
当社は経営コンサルティングを本業としながら、社内のエンジニアがこうした台帳の設計から開発まで手がけている。既製のパッケージで足りるなら、それが一番早い。パッケージでは表せない自社の運用が残るとき、たとえば保証会社との連絡の順番や、オーナーごとの送金と控除の決まりが会社ごとに違うときに、自社専用で作る意味が出てくる。どちらが向くかという入口の判断からご相談を受けている。
- 物件・部屋・契約・請求・入金を別の台帳として持ち、線でつなぐ
- 自動で消すのは全額一致の入金だけに限り、残りは人の判断に回す
- 突合の前に振込名義のカナを機械でそろえ、表記のゆれを吸収する
- 督促の段階と日数の設定は一か所に置き、その日の分を画面に出す
- 家賃等の分別管理から、オーナーへの定期報告までを一本でつなぐ
6. まとめ:消込を記憶から外す
入金消込と滞納督促の改善は、新しい道具を買うことから始まらない。請求一覧の列を固定する、振込名義の対応表を作る、消込待ちの理由を四つに限る、督促の段階と次回アクション日を書く。この四つは今月から手で始められる。そして、この四つをやっておくと、いざシステムへ移すときの要件がそのまま出来上がっている。先に手を動かした分は無駄にならない。
逆の順番で進めると苦しくなる。先にシステムを選び、後から運用を合わせようとすると、現場の例外が入らない箱に業務を押し込むことになる。入金消込は、例外の扱いがそのまま仕事の品質になる業務である。自社に起きている例外を書き出すことが、どのシステムを選ぶかより先に来る。書き出す手間は一度で済み、以後は会社の資産として残っていく。
最後に一点。家賃等を預かるという行為には、賃貸住宅管理業法が求める財産の分別管理という前提がある。宅地建物取引業法は、業務に関する帳簿を備え、取引のあったつど定められた事項を記載することを求めている。インボイス制度と電子帳簿保存法も、請求と入金の記録の作り方に関わる。これらは後から足せない設計の土台である。消込の仕組みを考えるなら、この土台から組むのが結局いちばん早い。
- 今月から、家賃と共益費を分けた請求一覧の列を固定して使い始める
- 振込名義と契約者名の対応表を作り、会社の資産として育てていく
- 消込待ちの理由と督促の段階を、人の記憶ではなく表の列として持つ
- 分別管理と帳簿、インボイスと電子保存の扱いは土台として先に組む
よくある質問
入金消込の改善は何から手を付ければよいですか。
請求の一覧を毎月同じ形の表にすることからです。契約番号、物件と部屋、請求月、家賃と共益費と駐車場の内訳、合計、支払方法、支払期日までを列として固定します。入金と並べる相手がこの表になります。相手が確定していないと、どんな道具を入れても照合は手作業のまま残ります。
振込名義が契約者と違う入金はどう扱えばよいですか。
名義と契約者の対応表を別に持ち、気づいた日に一行足していくのが基本です。表記のゆれ、つまりカナの全角と半角、濁点、法人格の書き方は機械でそろえてから突き合わせます。それでも当たらない入金は名義不明として消込待ちに積み、担当者が確認した結果を対応表へ戻します。
滞納督促はシステムでどこまでやれますか。
できるのは記録と進捗の管理です。何日目にどの段階へ進むかを設定として持ち、その日が来たら担当者の画面に出し、実施した内容と次回の予定を残します。契約の解除や明渡しといった法的な判断は弁護士などの専門家の領域です。システム側は経過と催告の記録を整え、引き継げる形で出力するところまでを担います。
インボイス制度は家賃の請求にどう関わりますか。
居住用の住宅の家賃は消費税が非課税なので、適格請求書の交付という話にはなりません。事業用のテナント家賃や、施設として貸す駐車場の料金は課税取引になり、登録番号や税率ごとに区分した対価の額と消費税額などの記載事項が必要です。一社で両方を扱うなら、請求の行ごとに課税か非課税かを判定できる作りにします。
管理戸数が少なくてもシステム化する意味はありますか。
戸数が少なく担当者が一人なら、表計算での運用でも十分に回ります。意味が出てくるのは、担当者が二人になったとき、物件が増えて行数が千を超えたとき、そしてオーナーへの定期報告を遅れずに出す必要が強まったときです。この三つのうち一つでも近づいているなら、台帳の形を先に整えておくと移行が軽くなります。
まずは30分お話を伺います。
