📌 本記事の結論(先に要点)

・在庫のズレは、物が動いたのに記録が残らない場面に集中して発生する。原因は数え間違いよりそこにある。
・店舗とネットで在庫を別に持つと、片方が売れた瞬間にもう片方が嘘になる。在庫は一つの数に寄せる。
・棚卸でまとめて実数に書き換える運用は、ズレの原因まで消してしまう。差異は理由ごとに記録する。
・全商品を毎回数える必要はない。動きが多い商品だけを高い頻度で数えるほうが早く合うようになる。
・システム化は在庫の一元化から始める。在庫が合うようになる前に販促や需要予測を入れても効かない。

1. 数字が合わない日が、月末に来る

小売の現場で在庫が合わないと分かるのは、たいてい月末の棚卸である。レジのデータでは二十個売れて、入荷は三十個だったのに、棚には七個しかない。三個足りない。原因を探す余裕はないので、実際の数に書き換えて締める。翌月も同じことが起きる。数え直すたびに差が出るので、やがて「在庫表はだいたいの目安」という扱いになる。この状態になると、在庫表を見て発注を決めることができなくなり、発注は担当者の勘に戻る。

ネット販売を始めると、ズレの現れ方が変わる。店舗の棚から売れた商品が、ネットの在庫数に反映されるのは翌朝である。その夜のあいだに注文が入れば、売る物がない注文を受けてしまう。謝って取り消す連絡を入れる。これが続くと、ネット側の在庫を実際より少なく登録して安全を取るようになる。すると、本当は売れた商品が「在庫なし」で表示され、売上の機会だけが静かに消えていく。

どちらの場面でも、現場が責められるのは数え間違いである。しかし実際に数え間違いで消える数は、ズレ全体の一部にすぎない。残りの大半は、物は動いたが記録が残らなかった分である。在庫のズレは、数える技術の問題ではなく、記録の網に穴がある問題である。穴の場所は店によって違うが、種類はそれほど多くない。だからこそ、順に潰していけば合うようになる。

2. ズレが生まれる六つの場所

在庫のズレは、物が動いたのに記録が残らない場面で生まれる。小売で多いのは次の場所である。試食や試用で開けた分。店内で使った分。破損や汚損で捨てた分。返品で戻ってきたが棚に戻す記録がない分。店舗間で移した分。そしてレジを通さずに持ち出された分。この六つは、どれも売上のデータに出てこない。レジのデータと入荷のデータだけで在庫を計算していると、この六つはまるごと差異になる。

店舗とネットの在庫がずれる理由は、構造の側にある。店舗のレジと、ネットのカートが別々の在庫数を持っている場合、どちらかが売れた瞬間に、もう片方が持っている数は事実と違う数になる。反映の間隔が一時間なら、一時間ぶんの嘘を抱えることになる。一日一回なら一日ぶんである。この嘘が実際の事故になる確率は、商品の売れる速さに比例する。だから、よく売れる商品でこそ事故が起きる。

もうひとつ見落とされがちなのが、棚卸のやり方である。差異が出たときに実数へ書き換えるだけだと、ズレは消えるが原因は消えない。来月も同じ原因で同じだけずれる。そして書き換えの記録が残らないため、どの商品がどれだけ、どの理由でずれたのかを後から見ることができない。棚卸は数を合わせる作業だと思われているが、本来は原因を見つける作業である。ここを取り違えると、毎月同じ作業を永久に続けることになる。

3. 今の道具のままできる手当て

最初にやるのは、記録されない動きに記録の欄をつくることである。前の章で挙げた六つに、それぞれ紙の伝票かメモの様式を用意する。立派なものでなくてよい。日付、商品、数、理由の四つが書ければ足りる。重要なのは、理由を選択式にすることである。自由記入にすると「不明」が増えて集計できない。試食、店内使用、破損、返品戻し、店舗間移動、紛失。この六つから選ぶ形にすれば、月末に理由別で足し上げられる。

次に、棚卸のやり方を変える。全品を年に数回まとめて数えるのをやめ、動きの多い商品だけを高い頻度で数える形に移す。出荷の金額が大きい商品から順に並べ、上位の商品群は毎週か隔週、中位は月次、下位は年に一度か二度。数える総量は減るのに、金額のズレは早く見つかる。数えるべきは全部ではなく、ずれると痛い商品である。

店舗とネットの在庫については、道具を替えなくても効く手がある。両方で売る商品について、ネット側に出す数の上限を商品ごとに決めることである。売れ行きの速い商品の在庫を一律に減らすのではなく、商品ごとに決めるのが要点である。あわせて、店舗で売れた分をネットに反映する間隔を、今の一日一回から一日数回に増やす。反映の間隔を半分にすれば、抱える嘘の量も半分になる。手作業でも、朝昼夕の三回に分けるだけで事故は減る。

表示の面では制度上の注意もある。在庫数や「残りわずか」といった表示、割引前の価格の見せ方は、景品表示法が禁じる優良誤認表示や有利誤認表示に当たらないようにする必要がある。実際には在庫が十分あるのに残りわずかと書く、過去に販売していない価格を比較対照として示す、といった表示は避ける。また、通信販売では特定商取引法により、販売価格、送料などの負担、代金の支払時期と方法、商品の引渡しの時期、返品の可否と条件などを広告に表示する義務がある。在庫が合っていないと、引渡し時期の表示が実態と合わなくなる。

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4. 手作業では追えなくなる場面

手当てを入れても、追いつかなくなる場面がある。ひとつは販売の経路が増えたときである。実店舗とネットの自社サイトだけなら、二か所の反映で済む。そこにモールへの出店が二つ、三つ加わると、反映すべき先が増え、しかもそれぞれの締まる時間が違う。人が順に更新していく形では、更新している最中に売れてしまう。経路が三つを越えたあたりから、手作業での在庫反映は現実的でなくなる。

もうひとつは、同じ商品を複数の場所に置いているときである。店舗の売り場、店舗のバックヤード、倉庫、取り置き分。物理的にどこにあるかで、客に渡すまでの時間が変わる。ネットの注文に倉庫から出すのか、店舗から出すのかで、在庫の意味も変わる。置き場所ごとの数を持たずに合計だけを管理していると、「数はあるのに出せない」という状態が頻発する。

期限のある商品を扱っている場合も、境目が早く来る。食品や化粧品のように賞味期限や使用期限があるものは、期限が近い順に出すのが原則である。これを手で管理すると、棚の前列だけを見て新しいほうから出してしまう。結果として期限切れの廃棄が増え、その廃棄が記録されないまま在庫のズレになる。期限と在庫は同じ台帳で持たないと、両方が崩れる。

5. 一元化から始める理由

小売・ECで在庫管理システムを入れるなら、最初の一手は在庫の一元化である。店舗、自社サイト、モールが、それぞれ在庫数を持つのをやめ、在庫数はひとつの場所にだけ存在する形にする。各経路はそこを参照する。売れたら、どの経路から売れてもその一か所の数が減る。これだけで、二重に売る事故と、安全のために在庫を少なく出して機会を逃す損失の、両方が消える。

次に、入出庫の記録をすべて一本の道に通す。入荷、販売、返品、廃棄、店舗間移動、棚卸の調整。種類は違っても、在庫の数を動かすのは必ずこの道を通った記録だけ、という形にする。理由の区分は記録に残す。こうすると、月末に理由別でズレの内訳が出る。どの理由が大きいかが見えれば、次に手を打つ場所が自分で分かるようになる。

三番目に、動きの多い商品を高い頻度で数える循環棚卸の仕組み、四番目に、発注点と安全在庫にもとづく発注の推奨。この順である。需要予測や自動発注を先に入れたくなるが、在庫の数が合っていない状態で予測を回すと、間違った数から間違った発注が出る。予測は、合っている在庫の上でしか働かない。導入の相談で最も多い取り違えが、この順番である。

当社は経営コンサルティングを本業とし、社内のエンジニアがこうした在庫と販売の仕組みの設計と開発を行っている。相談を受けていて感じるのは、必要な機能が足りないのではなく、入れる順番が逆になっている例が多いということである。在庫が合っていない状態で販促や予測の機能を増やしても、効き目は出ない。どこから手を付けるかの整理だけでも相談に乗れる。

6. 来週の棚卸でやってみること

在庫がずれる原因は、店ごとに少しずつ違う。だから、他社の対策をそのまま持ってきてもあまり効かない。効くのは、自分の店のズレの内訳を知ることである。来週の棚卸で、差異を実数に書き換える前に、商品ごとの差の数量と、思い当たる理由を書き残してほしい。それを三回繰り返せば、自分の店で何が起きているかが見える。見えたところから直せば、全部を直さなくても在庫表は使える水準に戻る。

もうひとつ付け加えると、在庫を合わせることの価値は、数字が合う気持ちよさではない。在庫表が信用できるようになると、発注を勘でやらなくてよくなり、欠品と過剰の両方が減り、売り場に出す商品の判断が速くなる。在庫を合わせるのは、発注と販売の判断を取り戻すためである。そこまで行かないと、棚卸は毎月の面倒な行事のままになる。

店舗とネットの在庫を一続きで見直すときの考え方は、小売・EC向けに業務の論点を整理したページにも載せている。記録されない物の動き、販売経路ごとの在庫の持ち方、循環棚卸、発注点という順に並べてあるので、自社がどの段で止まっているのかを照らしやすい。手元のメモに、自社の販売経路の数と在庫の置き場所の数を書き出してから読むと、どこが手作業の境目かを判断しやすくなる。

よくある質問

棚卸で毎回差が出る。何件までなら許容してよいのか。

許容できる件数を先に決めるより、差の理由が説明できる割合を見たほうがよい。理由が分かる差は対策が打てるが、理由不明の差は次も同じだけ出る。まず理由不明の割合を下げることを目標にする。そのためには、差異の理由を選択式で記録し、月ごとに内訳を並べる。内訳が見えれば、どこに手を打つかは自然に決まる。

店舗とネットの在庫を一つにすると、店頭で売る分がなくなりそうで不安である。

在庫を一つにすることと、全部をネットに出すことは別の話である。在庫数はひとつに持ちながら、そこからネットに出す数を商品ごとに決めればよい。店頭の見栄えに必要な分を確保したうえで、残りをネットに回す。分けて持つより、一つに持って配分を決めるほうが、欠品と機会損失のどちらの事故も減る。

循環棚卸は、どの商品から数えればよいのか。

直近の一定期間の出荷金額で商品を並べ、金額の大きいほうから区分するのが一般的である。上位の商品は数える頻度を上げ、下位は下げる。並べ替えの結果は季節で変わるので、定期的にやり直す。はじめは上位の商品群だけを決めて週に一度数え、慣れてから中位に広げるとよい。最初から全区分を作り込む必要はない。

在庫が合わない原因に、盗難はどのくらい含まれるのか。

含まれるが、最初に疑う対象としては適切でない。記録されない動きのうち、試用、店内使用、破損、返品の戻し、店舗間移動の五つを記録の網に入れてから、それでも残る差を見るほうが順序としてよい。先に盗難を前提にすると、現場が疑われていると感じ、記録の協力が得られなくなる。残った差を見てから打つ手を決める。

在庫の表示や価格の見せ方で、気をつけることはあるか。

景品表示法では、実際より著しく優れていると誤認させる表示や、取引条件を著しく有利に見せる表示が禁じられている。在庫が十分あるのに残りわずかと書く、実際に販売していない価格を比較対照にする、といった見せ方は避ける。通信販売では特定商取引法により、販売価格、送料などの負担、引渡しの時期、返品の可否と条件などを広告に表示する義務がある。

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飛
飛田 昌邦(TRUSTEP JAPAN株式会社 代表取締役)
大手総合商社で12年間営業に従事し、年間優秀社員賞を7回受賞。2020年に創業し、経営・営業・人材育成の支援実績は400社以上。現在は経営・営業・人材育成のプロと社内のエンジニアによるチームで、中小企業の業務システムを一緒につくり、使いこなせるまで伴走している。認定経営革新等支援機関。