毎年秋は、地域別最低賃金が改定され、新しい金額が順次発効していく時期です。ここ数年は引き上げ幅が大きい傾向が続いており、パート・アルバイトを多く雇用する中小企業ほど影響は小さくありません。当社にもこの時期は「うちは大丈夫か確認したい」「上がった人件費をどう吸収すればいいか」というご相談が増えます。本記事では「中小企業 最低賃金 引き上げ 対応」で調べている経営者・総務担当者に向けて、確認の手順から、人件費の上昇を利益で吸収するための打ち手までを整理します。
・最低賃金は都道府県ごとに金額も発効日も異なる。まず自社の事業所所在地の額と発効日を確認
・月給者も時間額に換算して比較。通勤手当・皆勤手当・残業代などは算入しない
・最低賃金ぎりぎりの人だけでなく、その上の人との差(逆転・圧縮)も見直す
・吸収策は価格転嫁・生産性向上・制度活用の3本立てで考える
・「賃上げ」を採用・定着の武器に変える発想が大切
※金額・発効日・助成金や税制の要件は年度ごとに変わります。最新は厚生労働省・各都道府県労働局など公式情報で必ずご確認ください。
1. まず押さえたい最低賃金の基本
最低賃金は、最低賃金法にもとづいて国が定める賃金の下限です。使用者は、これを下回る賃金で労働者を働かせることはできません。仮に労使で合意していても、最低賃金を下回る部分は無効となり、差額の支払い義務が生じます。
- 地域別最低賃金:都道府県ごとに定められ、正社員・パート・アルバイト・学生アルバイトなど雇用形態を問わず適用される
- 特定(産業別)最低賃金:特定の産業に設定されているもの。地域別と両方が該当する場合は高いほうが適用される
- 適用は事業所単位:本社と異なる県に支店・工場・店舗がある場合、それぞれの所在地の最低賃金で判断する
改定の発効日は都道府県によって異なり、年によっては秋以降にずれ込む地域もあります。「いつから・いくらに」なるのかを、事業所ごとに一覧にしておくことが最初の一歩です。
2. 自社の賃金が下回っていないか——確認の3ステップ
時給で働くパート・アルバイトは比較が簡単ですが、見落としやすいのが月給制の社員です。基本給が低めで手当が多い賃金体系の場合、時間額に直すと最低賃金を下回っていた、というケースは珍しくありません。
金額・発効日を確認
時間額に換算
改定・通知を完了
- 月給制の換算:月給(対象となる賃金)÷ 1か月平均所定労働時間 = 時間額
- 日給制の換算:日給 ÷ 1日の所定労働時間 = 時間額
- 算入しない賃金:精皆勤手当・通勤手当・家族手当、時間外・休日・深夜の割増賃金、賞与など臨時・1か月を超える期間ごとに支払う賃金
もうひとつの注意点は、発効日をまたぐ給与計算期間です。締め日の途中で発効する場合、発効日以降の労働分から新しい最低賃金が適用されます。給与ソフトの単価更新を忘れないよう、担当者と日付を共有しておきましょう。
3. 見落としがちな「賃金の逆転・圧縮」
最低賃金ぎりぎりの人だけを引き上げると、勤続年数が長い人や役割が大きい人との差が縮む、あるいは逆転することがあります。新人とベテランの時給がほぼ同じになれば、ベテランの納得感は下がり、離職のきっかけにもなりかねません。
対策としては、最低ラインだけを動かすのではなく、時給テーブル(等級や習熟度ごとの賃金表)全体を見直すことです。あわせて「何ができるようになれば時給が上がるのか」という基準を明文化すると、賃上げが単なるコスト増ではなく、成長の動機づけに変わります。採用難・定着の課題とあわせて考えたい方は、求人と定着の見直し+使える助成金もご覧ください。
また、パート従業員の中には、年収が一定額を超えないよう勤務時間を調整している方もいます。時給が上がると、年末にかけてシフトに入れる時間が減ることがあるため、秋のうちに本人の意向を確認し、人員計画に反映しておくと安心です。
4. 人件費の上昇を吸収する3つの打ち手
最低賃金の引き上げは、一度きりのコストではなく毎年続く構造的な変化として捉えるべきです。認定経営革新等支援機関として400社超の中小企業を支援してきた経験から、吸収策は次の3本立てで考えることをおすすめしています。
- ① 価格転嫁:人件費の上昇は、取引先に価格改定をお願いする正当な理由になります。原価への影響を数字で示し、根拠をもって交渉することが大切です。進め方は値上げ・価格転嫁の進め方で詳しく解説しています
- ② 生産性向上:同じ人数・同じ時間で生み出す付加価値を増やす取り組みです。設備の更新、業務のムダの削減、生成AIやシステムによる定型業務の自動化などが該当します
- ③ 制度の活用:賃上げや生産性向上の投資を後押しする助成金・税制があります。うまく組み合わせれば、実質的な負担を抑えながら体制を整えられます
どれか1つで全額を吸収しようとせず、3つを組み合わせて少しずつ埋めるのが現実的です。
5. 使える助成金・税制の考え方
賃上げと関連の深い代表的な制度として、厚生労働省の業務改善助成金があります。事業場内の最低賃金を一定額以上引き上げ、あわせて生産性向上のための設備投資などを行った場合に、その費用の一部が助成される制度です。対象となる事業場の条件、引き上げ額のコース、助成上限、申請のタイミングは年度ごとに見直されるため、検討時には必ず最新の要領をご確認ください。特に「賃金を引き上げる前に申請が必要」といった順序のルールがある場合、先に賃上げしてしまうと対象外になるおそれがあります。
税制面では、給与等の支給額を増やした企業が法人税などの税額控除を受けられる賃上げ促進税制があります。要件や控除率の考え方は賃上げ促進税制の活用ガイドにまとめています。
このほか、生産性向上のための設備投資やIT・AI導入には、各種補助金が使える場合があります。どの制度が自社に合うかは、投資内容・時期・規模によって変わるため、「賃上げの予定」と「投資の予定」をセットで整理してから制度を選ぶのが近道です。
6. 今月中にやっておきたいチェックリスト
- ☐ 事業所ごとの新しい最低賃金額と発効日を一覧にした
- ☐ 全従業員(月給・日給含む)の賃金を時間額に換算して比較した
- ☐ 給与ソフトの単価・時給テーブルを更新する担当と日付を決めた
- ☐ 引き上げ後の賃金の逆転・圧縮がないか確認した
- ☐ パート従業員の年末までの勤務意向を確認した
- ☐ 人件費の増加額を試算し、価格改定・生産性向上の計画に落とし込んだ
- ☐ 使える助成金・税制を、賃上げ前に確認した
7. まとめ
最低賃金の引き上げへの対応は、①違反を防ぐための確認と、②上がり続ける人件費を利益で吸収する経営づくりの2段構えです。前者は発効日までに必ず終わらせ、後者は価格転嫁・生産性向上・制度活用を組み合わせて中長期で取り組みましょう。賃上げを「仕方なく払うコスト」ではなく、人が集まり、辞めない会社をつくる投資に変えられるかどうかが、これからの中小企業の分かれ道になります。
なお、最低賃金の金額・発効日、助成金や税制の要件は年度ごとに変わります。本記事は一般的な考え方の解説であり、個別の判断は必ず厚生労働省・都道府県労働局・国税庁など公式情報で最新をご確認ください。TRUSTEP JAPAN は認定経営革新等支援機関として、補助金・助成金の活用から、AIによる業務効率化、経営改善まで一気通貫で伴走しています。補助金・助成金の申請支援サービスもあわせてご覧ください。
